春に

このくしゃみはなんだろう
目に見えない花粉の流れが
大地から風のうらを伝わって
僕の鼻へ胸へそうしてのどへ
声にならいさけびとなってこみあげる
このくしゃみはなんだろう

枝の先のふくらんだ新芽が鼻をつつく
アレグラだ しかし杉の木がある
アイボンだ しかもブタクサがある
レーザーだ そしてヒノキがかくれている

マスクのダムにせきとめられ
よどみ渦まきせめぎあい
今あふれようとする

このかゆみはなんだろう
あの空のあの青に目をひたしたい
まだ飲んだことのないすべての薬(ヤク)を
飲んでみたい試してしてみたい
真夏と秋冬が一度にくるといい
僕はもどかしい
地平線のかなたへと歩きつづけたい
そのくせこの家の中でじっとしていたい
(大声で医者をよびたい)
そのくせひとりでだまっていたい
このかゆみはなんだろう

谷川先生、ごめんなさい…。