英語教育熱 / 金谷憲

英語教育熱 過熱心理を常識で冷ます

英語教育熱 過熱心理を常識で冷ます

 東京学芸大の金谷先生のエッセイです。そう、エッセイなんです。研究社「現代英語教育」や大修館「英語教育」などに書いたコラムなどに加筆したものを中心に、あまり専門用語や統計などにこだわらずに(そういう意味では本当に気楽に)綴っています。

 基本的に加熱しすぎた日本社会の「英語教育熱」を冷まそう、というスタンス。そういう意味では内田樹先生の「街場の教育論」なんかと同じ立ち位置か。現場の教師の肩の荷を降ろしたい、という思いが伝わってきます。「過熱心理を常識で冷ます」という副題つき。

 内容とは全然関係ない文体の話。金谷先生って、昨年少しだけお話させていただいた(お話を聞かせていただいた)だけですけど、文章よりお話の方が滑らかという感じ。ま、当たり前か。文章でもその「気さくな感じ」を表そうと努力されているものの、やや不発。繰り返し登場する太平洋戦争とのアナロジーも、ちょっとマニアックすぎるような。でもエッセイだから、まいっか。とはいえ、市長など行政のトップが「英語教育」を政治の道具にして現場を惑わせる姿を、大本営の参謀たちの無謀な作戦によってガダルカナル日本兵が全滅した話に例えるところなんかは刺激的。(w

 国家戦略としての英語教育政策については、「英語を武器にして社会を戦う人」から「英語は簡単な会話ができればいい人」まで様々なニーズが存在することを鑑み、(まるでケータイのW定額のような)二段階方式のゴールを設定することなどを提案されています。この辺は実現可能かは別にして、すごく(政治というより教育の)現場っぽい視点だなぁと思います。ご指導なんかを見ていても、金谷先生ってリアリストだなぁと感じますけど。

 英語を身につけるには(身につけさせるには)それなりのコスト(努力)が必要なんだよ、というとても当たり前の「常識」を提示する本。

 先生の知名度(やその及ぶ範囲)を考えると、きっと買っている人の多くは英語教師だと思います。第一義的にはそれでこの本の目的は達成できているんだとは思いますが、せっかくエッセイというソフトな形を取っているんだから、教師以外の人種の方々にも読んでもらえるといいなぁと思います。そういう意味では、さらにもうちょっと専門用語を減らして、軽いエピソードを交えながら、もうちょっとメジャーな新書系出版社から、一般向けに発売したら面白い内容だと思います。

 ま、「英語教育ビジネス熱」で動くお金の行き先のひとつである書店さんからすると、その「熱」を冷ますような本は、あまり目立つところに置けないか、なんて邪推してみたり。