文章に焦点を合わせる

 大学院でいろいろな論文を読んでるけど、昨年は全部紙に印刷してました。春休みにまとめてファイリングしてみたら、結構な量になりました。視覚的に「これだけ読んだ」と認識出来るのは、それなりに充実感を味わうことができていいですね。紙メディアの良いところでもあります。

 でも、今年度はほぼすべての文献をiPadかMacBookAirで読んでます。紙でもらった資料も全部ScanSnapでPDF化して、画面で読むようにしています。

FUJITSU ScanSnap S1500M FI-S1500M (Macモデル)

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 そんな中、iPadのGoodReaderというPDFリーダーアプリは特に重宝してます。マーキングや書き込みもできて本当に便利なんです。SugarSyncとも連動していて、PDFファイルをクラウド上に置いておけば、いつでも読みたい論文を引っ張り出してこれるのもありがたいです。よい時代になったもんです。
GoodReader for iPad

 もともとは単純に「印刷が面倒」「インク代が…」という理由もあったんだけど、実際に画面で論文を読むようになって「よかった」と思うことがたくさんあるんです。その中のひとつ、MacBookAirによる音声読み上げ機能のメリットについてはこのあいだ書きました。iPadにもこの機能があれば完璧なんですけどね。

 もうひとつは、文字の大きさを変えられることです。

 それなりに歳をとったのか、Wordも150%表示以上じゃないと作業しづらくなってきました(笑) でもそれだけじゃなく、画面に表示させる範囲を上下させているとふと「文章と焦点が合う」瞬間があるんです。「文字と」というより、「文章と」焦点が合うんです。この感覚わかるかなぁ。焦点が合っていると、内容理解の速度も、音読する際の質も、絶対違うと思います。ああ、こういうツールが学生時代にあったら、ぼくの勉強スタイルや成果も変わっていたんじゃないか、とさえ思います。

 日本語で書かれた文章を読ませても、目を適切に動かすのが苦手で、とても苦労して音読する生徒が結構います。読んでいるうちに、どこを読んでたのかわからなくなっちゃうんです。内容理解しようと黙読していると、周りの文字やイラストに気が散ってしまって集中して読めない生徒もいます。そういう生徒のために、1行分だけ縦長にくり抜いた厚紙を教科書の上に重ねて、1文だけ見えるようにして読ませるような手助けをしている実践を見たこともあります。ぼくもやや特殊な目を持ってるので、今読むべきものだけをフォーカスして提示してくれるツールがあったら、文章を読むのがすごく楽だったのになぁと思います。

 例えば上手に音読をするためには、今読んでいるところの少し先まで半ば無意識に目を向けておく必要があります。俯瞰的に文章を捉えられてないと、めりはりがつけられないですから。音読の上手な人は、瞬間的に1単語レベル(ミクロ)と1文レベル(マクロ)での視界の切り替えがさっとできる人なんだと思います。

 そういう意味では、文字サイズを大きくして、画面に表示できる文章の量が減ってしまうのは、音読を上達する上では弊害もあります。でも、読めるようになったら文字サイズを下げていって、全体を見えるようにするなどの「アジャスト」ができるというのは、やっぱりすごく魅力的です。

 これまで「デジタル教科書」というものにはやや懐疑的なスタンスを持ってたんですけど、こういう個別のカスタマイズという点では、すごく期待できる部分もあると思います。もちろん学習者が自分の特性を理解して、それにアジャストする力を持っていなければならないので、小中学生くらいの学習者がそれをフルに活用できるかは課題があると思いますけど。

 授業で「音読」についてあれこれ考える中で、こういった視野の広さや認知速度の影響の大きさを考えるようになりました。日本語ならできるのに、英語ではできないのだとすると、英語の学習量が足りないせいだと言えるでしょうけど、日本語でもできない生徒は結構いるものです。Read and look upをしていて、教師に"read!"って言われても、咄嗟に次の文を探せない子いるでしょ?(だから、ぼくの授業では指でなぞりながらやるように指示しています)

 教室にはいろいろな生徒がいます。学習の困難さの原因も様々です。それでも、ちょっとした工夫で「読めた!」と自信を持てる子もいると思います。その工夫がデジタルにせよ、アナログにせよ、そんな支援をしてあげたいなぁと思いました。学習対象との焦点さえ合えば、今以上に力を発揮できる子がいるはずですから。