決壊 / 平野啓一郎

決壊〈上〉 (新潮文庫)決壊〈下〉 (新潮文庫)
 最近、同年代の人が書いた本が気になります。

 少し前に「プリンセス・トヨトミ」を読んでた時に、ふと「この作者(万城目 学)は自分と同じ世代の人だ!」って直感があって、調べてみたらぴったり同学年でした。別に何か具体的な記述があったわけではないんだけど、昔のできことを語るときの視点というか目線の高さが、文字通りその頃の自分の目線の高さ(背の高さ=年齢)を反映しているように感じたんです。

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

 なんとなく共感できて嬉しい気分になるのと同時に、「こんなのを書ける奴が、同じ学年にいるんだぁ」という焦りみたいなものも押し寄せてきます。

 そんなこともあって、そういえば、と本屋で思わず手に取ったのが、平野啓一郎の「決壊」でした。

 平野氏は確か1つ上の学年。京大法学部在学中に芥川賞を取ってたのでよく覚えてます。(そういえば万城目氏も京大法学部卒でしたね) 実は当時デビュー作の「日蝕」も、三作目の「葬送」も読み始めながら途中で挫折してしまった恥ずかしい過去があるので、今回はリベンジの気分。しかも、初期の「ロマンティック三部作」と違って今回は現代物。この機会に腰を据えて読んでみようと思いました。
日蝕 (新潮文庫) 葬送〈第1部(上)〉 (新潮文庫) 葬送〈第2部(下)〉 (新潮文庫)
 とはいえ、ここのところ軽めの推理モノばかり読んでたので、基本的にはミステリー調でドラマチックに物語が進むものの、その中で唐突に内省的な「思考」が圧倒的な勢いで流れてくる文学的な作りに戸惑い、最初の頃は読みながら脳内のスイッチを切り替えるのに苦労しました。でもなんか懐かしい感覚。段々慣れてきたので、下巻は2日で読み終えてしまいました。

 で、読み終えてみて、かなり凹みました。

 いやぁ、何も考えずに気軽にこんなの手出しちゃいけないですね。あまりに無防備だったので、この本の抱える「悪魔」が自分の中に入り込んでくる「隙」をうっかり見せてしまったようです。この「隙」を人は「空虚」だとか「闇」だとかいろいろ呼ぶんでしょうけど、こんな風に他人の「闇」を見せられて初めて、自分の中に「闇」に気づくというか、自覚するというか、覚醒してしまうように思います。幸いなんとか「決壊」せずに、持ちこたえてますけど。

 匿名にしても実名にしても、ネット上で何かを語っている人間にとっては、とてもリアルに感じられるであろう「もうひとりの自分」との向き合い方。しかも、それは「もうひとり」とは限らないわけで、「バラバラ」になったものをどう収束させるのか、もしくは「拡散」させておくのか。平野氏は「分人主義(Dividual)」という言葉を使ってるみたいだけど、「いろんな顔の自分」のどれもが「本当の自分」なんだと思います。ぼくもよく保護者会なんかでも「一人十色」なんて言葉を使ってたので、ちょっとドキッとしました。

 でも、この歳になっても「自分が例外なんじゃないか?」なんて中二病的な混乱を抱えて鬱々と生きている人間にとっては、こんな本が救いになる部分もあるのかなぁと感じています。いや、お話は全然救いがないんですけどね。

 なんか、一般的な意味でこの本を広くお勧めしようとは思ってないので、変なレヴューになってますけど、やっぱり自分と同年代の人が書いたものを読んでみるのはいいなぁと感じています。きっと自分を「例外」と感じなくて済むような登場人物であったり作家に会えるような気がします。

 せっかくなので次は平野氏の「ドーン」も読んでみようかな。

ドーン (100周年書き下ろし)

ドーン (100周年書き下ろし)