春に

このくしゃみはなんだろう
目に見えないアレルギーの流れが
大地からはなのうらを伝わって
ぼくの鼻へ目へそうしてのどへ
声にならいさけびとなってこみあげる
このくしゃみはなんだろう
 
枝の先のふくらんだ新芽が鼻をつつく
アレグラだ しかし杉の木がある
アイボンだ しかもブタクサがある
レーザーだ そしてヒノキがかくれている
 
マスクのダムにせきとめられ
よどみ渦まきせめぎあい
いまあふれようとする
 
このくしゃみはなんだろう
アイボンのあの青に目をひたしたい
まだ会ったことのないすべての薬(ヤク)を
飲んでみたい試してみたい
真夏と秋冬が一度にくるといい
ぼくはもどかしい
 
大気圏のかなたへと歩きつづけたい
そのくせこの家の中でじっとしていたい
(大声で医者を呼びたい)
そのくせひとりでだまっていたい
このくしゃみはなんだろう
 
 
 4年前に書いたものを少し改稿して再掲。あの時はまさか、自分がこの歌を(涙を浮かべながら)実感持って朗読できるようになるとは思いも寄りませんでした。これだけぼくらの心を打つ詩が書けるということは、もしかしたら谷川俊太郎さんも同じ苦しみをお持ちの方なのかも知れませんね。