持っているのが嬉しくなるワーク

 新刊教科書準拠ワーク『エイゴラボ』を通して副教材を考えるシリーズ、第5弾。これで最後です。最終回は「デザイン」について考えます。

 これまでご紹介してきたように、『エイゴラボ』は他の教材と並べてみた時に異彩を放っていると思います。それを際立たせているのが、やはりデザインだと思います。教材にとってデザインって重要なのかと思う人もいるかも知れませんが、ぼくは大きな意味があると思っています。

 まず、「工業デザイン」という点から考えます。教材がまず一番に考えなければならないのは、使用する学生の感じ方です。教材を選ぶ際には、ユーザー・インターフェイスが教材としてどれくらい優れているかを考える必要があります。

 例えば「色」という観点1つとってみても、考えるべき点はいくもあります。白黒は学習者のモチベーションを喚起しないでしょうが、単純に色が多ければいいわけでもありません。近年はフルカラーの副教材も増えましたが、色数が多すぎてチカチカしてしまい、逆にどこが重要なのかわかりづらい教材もあります。教科書なんかは、ちゃんとユニバーサル・デザインを考慮して作るようになってきたんですけどね。個人的には、2〜3色刷のものが紙面が落ち着いていて好きです。

 また、ページ数を抑えるために、1ページにたくさんの情報と問題を詰め込んでいる教材も多いです。字も小さく、余白も狭い。そうなると、ワークをやりながら目を右に左に、そして上に下にせわしなく動かさなければならなくなり、結構疲れます。英語が苦手な子のためにいろいろ載せてくれているんでしょうが、そういう子ほど情報が多すぎて必要な情報にアクセスできない可能性があります。あるワークを見た生徒は、「どこが問題で、どこが解説なのか、パッと見てわかりづらい」と言っていました。

 その点、『エイゴラボ』はすっきりしていると思います。

・色数が抑えめで、淡い色中心で目に優しい
・イラストの線も黒以外でやさしい印象
・余白、行間が広いので安心感がある
・基本的に上から下に目線を動かせばいい
・問題のタイプによって背景が色分けされているので
 目的のページを探しやすい
・模範解答のフォントが手書きに近い



 特に最後のフォントについては、見本を見た多くの先生方が気に入ってました。生徒に見せるフォントにはこだわりを持っている中学校の先生が多いですよね。3年生版でもちゃんと手書き風フォントを使っているのも、今まであまりなかったかも知れませんね。

 こういう、ユーザーの使い勝手を向上させる、もっと言えば学習効果を促進する可能性がある工夫こそ、教材の工業デザインとして求められていることだと思います。

 さて、「デザイン」という言葉が持つもう一つの意味は、単純にファッション的な美しさです。例えばこのワークの表紙、単純にポップで美しくないですか? 学校納入のワークに見えないかもしれません。

 ぼくは、中学生であっても(いや、中学生という年頃だからこそ)、そして学校という文脈で購入するものであっても、大人向けのオシャレなデザインものを持つべきだと思っています。市販の学参や問題集は、近年ずいぶん垢抜けてきたと思いますが、これまでの中学生向けの教材は、明らかに子供騙しというか、「教材らしさ」「学校らしさ」を全面に出した残念なものが多かったように思います。

 中にある文化紹介のページも、カラー写真で生徒を惹きつけようとあれこれ紹介していますが、『エイゴラボ』ではインフォグラフィックを用いてシンプルでオシャレな情報の提供をしています。まるで大人向けの雑誌のようです。こういう情報の提示の仕方があるんだ、ということを間接的に伝えていくことも、個人的にはすごく大切だと感じています。英語教育とは少し離れちゃいますけど、教材に限らず日本って子どもたちに質のいいデザインを見せていない気がするんです。家電も文房具も、日本のプロダクトデザインはどこか垢抜けないですよね。iPhoneみたいな潔い製品がほとんどない。なんでも詰め込んで軽くしてるけど、安っぽい。

 CMなんかを見ていても、直接的に商品名を連呼したり、値段を大きく提示したりするような手法のほうが、結局「効果がある」のでしょうから、そういうあまりオシャレではない方法が選ばれがちです。景気が良くなければなおさらでしょうけど。でも、伝え方ってもっと多様で、もっと奥深いものだと思うんです。受け取る側は情報だけでなく、「使う喜び」とか「持ってみたい憧れ」とか、情報以外のものを受け取っていると思います。デザインというのは、そういう情緒的なところを満たす役割があると思います。

 教材だって、そういったプロダクトの1つなわけで、ユーザーがそれを持ち歩いて、何度も開いて、学習して、成長して、という学習者の「人生」を彩る役割があります。持っていて嬉しくなる、開くのが楽しくなる、ずっと取っておきたくなるような仕掛けが、大切だなぁと『エイゴラボ』を見ながら考えていました。

 こういったデザインは、あくまで付加価値です。でも、これまでの教材は「無料でドリルが付いてくる」とか「テスト作成用のCDが付いてくる」みたいな物理的な「おまけ」ばかりで、それはもちろん助かるんだけど、それだったら値段下げてよ、と思うところもありました。その製品を選んだから付いてくる付加価値って、もっと目に見えなくて、お金では測れなくて(お金はかかってるだろうけど)、簡単には言葉にはできないようなものなんだと思います。もちろん、おまけではなく、製品の中の英文や問題の質をちゃんと吟味して、教師が教材を選んでいく責任があることも忘れてはならないと思います。