小学校英語のジレンマ

 ポッドキャスト【英語教育2.2CAST】にもゲスト出演いただいている寺沢拓敬先生の新刊『小学校英語のジレンマ』読了しました。

 

小学校英語のジレンマ (岩波新書)

小学校英語のジレンマ (岩波新書)

 

 

 いやー、すごく面白かったです。小学校英語が抱える構造的・歴史的な問題点を、政府の会議資料などをつぶさに追いながら、政策決定プロセスの問題として批判的に解説しています。

 

 小学校英語に反対する言説はこれまでにもありましたが、言語学的な観点からのものばかりで、こういった政策決定プロセスを批判するとなると、どうしても「官邸ガー!」「政権ガ−!」「文科省ガー!」とともすると「政治的」と扱われがちなのですが、この本で語られているのは、会議ごとの文言の変化だったり、メンバー構成だったり、会議のスパンや時期だったりをしっかり比較・検証しながら、冷静に指摘しているところがすごいなーと思うのです。実際、官邸の介入によってたった2ヶ月で方針が大きく動いているところがあぶり出されてくると、「政治的」ではなく「政策的」にどうだったのか、しっかり批判をするべきところなのだと思います。

 

 本来はそういうふうに語られるべき分野であって、これまで「英語教育学者」を名乗る人たちがそれをやってこなかったことを指摘されると耳が痛いのですが、なるほどこうやって訴えることが大事なんだな、と目が覚める思いです。

 

 官邸や文科省が開く専門家会議でこそ、こういった整理や議論がされてくるべきだったのに、どれもメンバーが意見を言いっぱなしで終わってしまう、会議システムそのものへの批判も書かれており、それって規模の大小はともあれ、「トップダウン」という言葉が独り歩きする日本中の多くの組織における「会議」で起こっていることかも知れません。

 

 小学校英語に関しては、当初から文科省は「将来的には教科にするけどいきなりだと反対派もいるので妥協して国際理解的な路線から入れてなし崩しで教科化かな」って考えてるんだろうなぁ、と勝手に思ってたので、どちらかというと「文科省ガー!」という立場だったのですが、こうやってプロセスを追ってみると、文科省が様々なプレーヤーの間でギリギリの調整(と妥協)をしてきたんだろうなぁ、とちょっとだけ文科省に感謝というか同情というか複雑な感情を抱いてしまいます

 

 個人的には(別にその分野の専門家ではありませんが、あくまで直感的に)専科教員を配しての教科化が一番いいと思っているのですが、そのためには「小学生に英語を教える専門家」の育成が重要で、教員養成課程の変更から考えると10年くらいかかる作業なんですけど、よく考えれば「外国語活動」なるものを始めてからもう10年は経つわけですから、あの頃から「10年後に教科にするよ。専科教員育成するよ」と文科省が言ってくれていれば、今の混乱はなかったのではないかなと思います。少なくとも、そうやって10年後くらいの未来を、というか教員リソースのこともちゃんと考えて、政策決定をしてほしいです。(「教員使えばタダ」という発想は、首長さんでもよく見られる発想ですけど)

 

 この書籍については、寺沢先生のブログでもフォローアップの記事がいくつか上ってますので、そちらもあわせて読んでみると面白いと思います。

 

terasawat.hatenablog.jp

terasawat.hatenablog.jp

 

 そして、ポッドキャスト【英語教育2.2 CAST】では、この本の出版に至るまでのエピソードなども伺っていますので、そちらもぜひ。(こちらは2月号ですが、3月号でも寺沢先生が登場予定です)

 

note.com