高校入試のライティング問題に「文脈」は必要なのか?

 毎年(だいたい)書いている、県立高校入試問題雑感エントリです。誰に伝えるため、というわけでもないけど、今年も書いておきます。ちなみに昨年度のはこんな感じです。

 

anfieldroad.hatenablog.com

 

 今年もライティング問題を中心に検討しますが、その前に1つだけ、大問2を見てみましょう。

 

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 これは少し前から似たようなパターンで出ている「語彙問題」です。例年はもう少し箇条書きっぽいメモのようなものと英文を対比させて単語を書かせる問題でしたが、今年はメモと言うかほぼ和文英訳の穴埋め、という感じになっています。

 いろいろご意見があるかとは思いますが、私はこの出題に賛成です。こういうふうに、実質的にただ単語を書けばいい問題が、あらゆる層の中学生が受験する県立高校入試にあるのって重要ですよね。

 それまであまり熱心に勉強してなかった生徒でも、受験直前になったら少しは焦るので、「今からでもできること」を探し始めます。教師としても、「教科の名前とか、家族を表す語とか、数字とかくらいは書けるようにしておこうよ」とギリギリまで指導することができます。 

 

 でも、データを見てみたら、昨年度はこの問題の通過率が意外に低いのでびっくり。(A)47.7%、(B)68.4%、(C)24.5%。(D)66.7%だそうです。あらゆる層が受ける入試問題なんだから、90%くらいの問題だってあったほうがいいのに…。

 見てみたら、昨年度は(A)run、(B)December、(C)rains、(D)Wednesdayということで、綴が難しかったり、活用させてたり、ちょっとヒネりすぎましたね。ここはもっとシンプルでよいと思います。今年度はもっとできているといいのだけど…。

 

 さて、ここからは恒例のライティング問題です。埼玉県は一般生徒が受ける通常問題と、難関校の受験生が受ける学校選択問題の2種類があります。昨年から難易度の差が大きくなっていました。

 

【通常問題】

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 一応英文を読んだ上で答える形式にはなっていますが、下線部の内容(Where do you want to go in the future?)はほぼ問題文で説明してくれているので、ここだけ読んでもできる問題になっています。

 昨年度に引き続き、今年も「メールに返信」パターンです。でもこれ、1行目をインデントしてたりして、すごくメールっぽくないフォーマットですよね。そして、そもそもPCでのメールって中学生に全然馴染みがないのになぁ…。

 たぶん、ライティングなんだからスピーキングの代替じゃなくてライティングとしてふさわしい場面設定を、と考えてくれているのだとは思うけど、今の状態がベストな形式ではないと思うので、「書くこと」に文脈をつくる方法は他にないものかなぁと考えてしまいます。

 学校という場面を離れて考えてみると、SNSやスマートフォンの発達により、ある意味LINEのストーリーやInstagramへのコメントのほうが自然な「書く」場面ですよね。その意味では「話し言葉を書く」は以前より自然なことになったと思います。

 

 そういう意味では、新学習指導要領では「話すこと」を〔やり取り〕と〔発表〕に分割したけど、思い切って「書くこと」を〔書き言葉〕と〔話し言葉〕に分けてみるのも面白かったのかもしれない、なんて考えてしまいました。(もちろん、「話すこと」と整合性を出すなら、「書くこと」も〔やり取り〕と〔発表〕に分けるべきだったんですけど)

 

 続いて、【学校選択問題】

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 こちらも例年通りの意見表明文。これ、文章を読ませているけど、どの程度文章の内容に触れるべきなのかが、よくわからないんですよね。採点基準はこんな感じですけど、

 

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別にそういう記載はないので、別に触れなくていいのかな。でもそれだったら、なんでわざわざ読ませる必要があるんだろう?という疑問があります。「文脈ありますよ」っていうエクスキューズな気もする。(別にそんなの要らないのに…)

 

 それにしても「適切な表現」の採点は大変だろうなぁ、といつも心配しています。というか、妥当な採点ができるのだろうか?

 というのも、「正確さ」は減点法でも対応できるけど、「適切さ」って「望ましい適切さ」がそもそも指導者にも受験者にも採点者にも共有されてないと減点法が難しいですよね。まだ加点法のほうが馴染みがいい気がします。

 「よりよく伝える」ためには、どういう方向が好ましいかがある程度指定される必要があって、そのためにこそ「文脈」や「場面」が必要なわけです。だから、上述のような長文を読ませるより、これが誰に対して意見を述べているのかをはっきりするべきです。同年代の友人同士で議論しているのか、学校の先生に反論しようとしているのか、などによって語彙の選択から論の進め方まで変わってくると思うし、それが「適切な表現」として評価されるべき部分だと思います。

 

 そんな話を、まさに昨日発行したNewsletterで書いてました。新学習指導要領でも「内容を整理する」力が問われていますけど、「正しい整理の仕方」は全国の先生方で共有されているとは言えないですよね、というお話です。よかったらそちらも読んでいただけたら嬉しいです。

 

anfieldroad.substack.com

 

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