薬指の標本

薬指の標本 (新潮文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

 「博士の愛した数式」で有名になった小川洋子の短編集。思い出の品ならなんでも標本にしてくれる「標本室」とそこで働くことになった「わたし」の物語。標本にしてしまうことで乗り越えられる過去と忘れてしまいたくない現在の思い出の間で揺れるわたしを描くタイトル作。

 もう一つの「六角形の小部屋」の方が個人的には気に入っています。「博士」ではあまり感じなかったけど、どことなく村上春樹のような世界を感じるのは私だけでしょうか。もちろん男女の違いはあるんだけど、小部屋の中での主人公の独白を読んでいたらなんとなくそう感じました。

 優しく軽やかな文体で綴るのは、どれも「過去」と向き合うわたし。「他の誰か」ではなく、自分の中で向き合って勝負しなければならないもうひとりの自分。ある人は標本に、ある人は小部屋にその思いを託すけど、本当は自分の力で乗り越えなければならないと、どこかでわかってるんでしょうね。