手紙 / 東野圭吾

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)

 冬休みにかけて読んでみました。というか、買って帰った日に母親に奪われて、やっと返してもらえたのでやっと読めたんです。母親は「泣いてしまった」と言っていたのでドキドキしながら読みました。

 東野圭吾さんは初期の作品なんかと比べると、ずいぶん上手くなったなぁと思います。技術的にというより、話の作りそのものが深くなったというか、ミステリーに留まらずひとつの物語を丁寧に語りきることができる人だと思います。それでも「秘密」の時にも感じたけど、語りすぎないというか、大切なことは行間に残したままなところがあります。

 強盗殺人犯の弟の人生。差別や偏見に振り回される様子に怒りや悲しみを覚えるけど、それをこれ見よがしに強調しない語り口。主人公を「彼は」と描き、どこか客観的なのは、読者に「主人公」ではなく周りの「名もなき多くの一般人」の視点で物語に参加してほしい、という筆者の願いがあるからだと思います。だから、主人公の心の叫びが時々胸に痛いのです。

 読み終わって、さだまさし「償い」の歌詞を思い出してしまいました。あるいはモチーフになっているのかもしれませんが。被害者にも加害者にも長かった15年。「取り返しのつかない時間」って、なんかいつもぼくの胸をつつくのです。映画、観てみようかな。