イマージョン校の未来

 さて、先日イマージョン教育に取り組む某教育施設を見学してきました。いろいろ考えさせられることが多くて、勉強になりました。大阪帰りの翌日だったのでちょっとしんどかったけど、行ってよかった。

 特殊な環境ゆえに、視察受け入れの態勢がしっかり整っていて、視察担当の方がついて説明→案内→質疑という流れで、とても丁寧に迎え入れてくれました。まぁ、私立なんだから宣伝にもなるし、その辺はぬかりないんだろうとも思ったけど、管理職も含めて、いい点ばかりでなく課題になっていることなども率直に話してくださったので、いろいろ見て考えることができました。

 まずは管理職から学校の成り立ちの簡単な説明。財政面について何か微妙な言い回しだったのが気になって、あとで調べてみたら行政側と理事長でもある首長との間でいろいろあったみたい。いろんな人の思惑が交錯する中で、現場は振り回されながらもがんばっているんだろうなぁと推察。学校なんてどこも変わりませんね。

 さて、授業見学は小学校から。

 基本的にオープンな作りの教室なので、廊下を歩いているとあっちこっちから英語が聞こえてきます。小学生はクラスを半分に分けて、英語と国語の授業を受けていました。今回の見学では主に英語の授業や英語でおこなう各教科の授業を参観してきましたが、国語も通常の学校と同じ授業数やっているそうです。

 子どもたちの英語は総じて綺麗です。低学年ほど綺麗ですが、3〜4年生にはカタカナ英語(だけど流ちょう)って子もいました。いずれにしても、見てきた範囲では発音や文法をexplicitに直す場面は見られませんでした。まぁ、あれだけのインプットがあればね、というところでしょうか。その分、writingでは(それが理科の課題であっても)かなり細かくcorrectionされるみたいです。

 全体的な印象としては、小学校に関しては「ちゃんと授業が成り立っている」という感じ。肝心な教科の学びがしっかり身についているのか、と少し疑問に思いながら行っていましたが、思ったより普通に授業が成立してました。まぁ、小1からやってればあれくらいできるか。

 中学生の授業は少しだけしか見られなかったのですが、中3の理科の授業はしっかり英語でできていました。日本語で書かれた問題集が机の上に乗っていたのは不思議な感じもしましたが、理数に関しては週1コマ日本語によるフォローアップもしているそうです。

 基本的に自由な雰囲気でJapanese Classroom特有の閉塞感がありません。机も台形のものを使っていて、並べてくっつけると少しお互いに内側を向くので話し合いがしやすくなるようになっています。ああいう工学デザイン的な部分も、学習を促進する大事なポイントだと感じました。そのせいか、生徒ものびのびと発言しています。ふと、先日のEllisの講演で「日本人が授業中に質問しないのは『日本人だから』ではない。『日本の教室』にいるからで、別のcontextではしっかり発言できる」なんて言葉を聞いたことを思い出しました。

 で、そうやってのびのびやっている雰囲気が小学生だと「元気でかわいい」感じがするんですけど、中学生が同じことをやると「生意気」に見えてしまうのは、Japanese Classroom contextに浸りきった日本人教師の目のせいでしょうか。実際の生徒と教師の人間関係は、短時間の見学ではわからなかったけど、「中学生の難しさ」は国の文化に関わらず存在するわけで、何語を話そうが教師の側に生徒を指導する力量がなければ、授業は成立しないわけです。

 日本で、英語が話せて、その教科の指導ができて(教員免許を持っていて)、しかも生徒指導力がある教師をどれだけ確保できているのか。いや、そこの学校の先生方は見た限り、どの方も素敵な人たちばかりでしたけど、こういった学校が増えていった時に、供給がどこまで間に合うのだろうか、とも考えました。

 この中3の子たちは、この春からできる高等部に進級するわけですが、せっかくここまでイマージョンでやってきて、高等部には海外の大学に進学できるように国際バカロレアのディプロマが取れるコースもあるというのに、日本の大学進学を考えて一般の高校へ進学する生徒も少なからずいるようです。そのため、この学校でもある程度「受験対策」を考えたコースも用意することになったそうで、日本語での授業が結構増えるそうです。

 それにしても、わざわざイマージョンを選ぶような人(というか、選んだのは親だな)であっても、「大学は日本で」って考えてるとことが面白い。「最近の日本人は『内向き』だ」言説にて戦犯の1つにされてるのが「日本人の英語力問題(というか、それを支える学校英語)」だったように思うけど、英語力はこれだけついても(もしかしたら「英語力はもうある程度ついたから」)海外の大学に行こうとはしないもんなんだというのが興味深いです。

 ということで、授業の周辺にばかり目が行ってしまって、授業の手法そのものについては、あまり語ってませんね。まぁ、「英語を教える」場面はあまり見られなかったので、その辺はご容赦を。

 あ、個人的に気に入ったのは音楽の授業。『ジャンプ・ライト・イン』メソッド』というのを採用していて、その指導ができる教員チームによって小1〜3で歌を、小4からは1つの管楽器をじっくり練習する、という流れ。すごく本格的な音楽のレッスンという感じで、すごく楽しそう。ま、楽器は個人負担だそうなので相当お金かかりそうだけど。

 ということで、すっかり満喫してきた学校見学。「特殊」な部分と「どこも変わらない」部分が見られて、とっても有意義でした。あの学校(とそこで学ぶ子たち)の未来を今後もチェックしながら、見守っていきたいと思います。