リアルタイム・シンガーソングライター / 高橋優

リアルタイム・シンガーソングライター

リアルタイム・シンガーソングライター

 震災後のいわゆる「元気ソング」的位置づけで、シングル「福笑い」がメディアで話題になってました。確かにシンプルで力強い曲なんだけど、アルバムを聞くと、そういう色だけで扱われちゃうのがもったいない感じがします。

 ニューヨーク・タイムズ紙に、

I think the universal language of the world is not English but a smile

と「福笑い」の歌詞の一節を英訳した意見広告を掲載したことも話題になってますが、そういう話題作りを無理やりしなくても、評価されていく歌い手さんだと思うんだけどなぁ。

 歌も声も言葉も魅力的ではあるのですが、彼の場合「息」がすごいと思います。いや、「福笑い」をCDと一緒に歌ってみればわかります。あんなに息が続かない。あのエネルギーはすごいなぁ。まるで体から溢れでてくる「息」に音や意味が乗って、吐き出されているかのよう。曲に言葉を乗せているのでも、言葉に合うメロディを探しているのでもなく、言葉と音が一緒に出てきているような感じがします。(実際の彼の作曲プロセスは知りませんけど)

 ソロシンガーは、どうしても「飽き」が心配ですが、彼はアルバムの中でいろんな顔を見せる器用さがあります。さっきの「息」でいうと、聞いている人(マイク)までの距離感を意識的に使い分けている感じ。すごくマイクの近くで力強く歌っている感じの「素晴らしき日常」みたいな曲もあれば、少し離れたところでちょっとクールに上品に歌う「メロディ」みたいな曲もあります。陽水のようにも、イエモンのようにも、田辺マモルのようにも聞こえる。その振れ幅が楽しい「シンガー・ソングライター」です。

 そもそもぼくは昔から、「シンガー・ソングライター」という響きに弱いのです。

 バンドでもユニットでもミュージシャンでも歌手でもなく、シンガー・ソングライター。バンドで人気を博した歌手がソロデビューしたのとも違う。ひとりであることの自由度と危うさみたいなものがいいのかな。高橋優の場合、箭内道彦氏プロデュースという文字も踊りますが、音楽的なサポートというより、「売り方」「生き方」的な指南をしてるんですかね。どのくらい「彼らしさ」が引き出されていくのか、今後に注目です。