2020年度埼玉県公立高校入試問題のライティング問題から読み取るメッセージ

 新型コロナウイルスの影響で、一斉休校の要請があり、学校現場は大変なことになっています。学校現場にいる先生方も英語教育どころではないと思います。でも、そんな時だからこそ、英語教育を淡々と語るのがこのサイトの役目かなと思っています。思えば、震災の時も同じようなことを書いていました。

 

 

 こんなタイミングで、埼玉県の公立高校は金曜日に県立高校入試がありました。一応自称「高校入試問題ウォッチャー」としてのお役目で、今年の入試問題を見ておきましょう。毎年一番気になるのはライティングなので、まずはライティング問題を見てみます。

 

 埼玉県の公立高校入試は、一部進学校で使われる「学校選択問題」と、その他の多くの学校で使われる通常の問題の2種類があります。特にライティングは毎年結構難易度の差をつけてくるので注目です。

 

 まずは通常問題。

【2020年度の問題(通常)】

 

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 一番の驚きは、書かせる文の数が減ったこと。これまで私が記録している範囲では、2002年度入試は「3文以上」だったのですが、2003年度入試以降は「5文以上」をずーっと保ってきました。その原則が17年ぶりに崩れ、「3文以上」に戻りました。

 

 あれ? よく見ると、メールを読んで返信するメールの真ん中の部分を書く、という形式も2002年度とまったく同じじゃないですか!

 

【2002年度の問題】

 

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 これまでも通常問題は「好き嫌いの理由」みたいなものを書かせてて、学校選択問題は社会的なshouldの文を書かせてたんですけど、「好き嫌いの理由」を5文も書いてられないよなーとは思っていたので、ある意味3文程度で適当なのかも知れません。(そもそも「好き嫌いの理由」を書かせるのには反対ですけど)

 

 まぁ、これ「理由」という言葉がミスリーディングで、生徒もBecauseで2文目を書き出しちゃいそうなんですけど、県が発表している模範解答にも実は(過去ずーっとですけど)Becauseは登場しません。Thats becauseだって登場しません。季節や場所のオススメを選ぶパターンの問題では、そこでできることが次に書ければいいので、そもそもBecause必要ないんですよね。埼玉県教育委員会も、それ分かってるんだから、いい加減指示文に「理由」という言葉を使うのを辞めません?

 

【2020年度の問題(学校選択問題)】

 

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 学校選択問題のほうに今年のテーマは環境問題。どこの教科書でも扱ってると思われる話題なので、語彙も含めてやりやすい問題でしたね。学校図書TOTALだったら、3年生のReadingで出てきた表現そのまま使えそうですね。少し前の「AI」や「メディア・リテラシー」みたいにキーになる概念が(中学生にとって)一般的とは限らないものより、入試で書かせる上では公平でいいかなと思います。

 

 でも「学校に行くのを辞めて、デモをする」という内容を、正しい英語で書いたら、この学校選択問題を使ってる進学校を自認する高校は、いったい何点くれるのか興味があります。

 

 こちらは今までと大きく変わらず量も「4050語程度」という指定です。通常問題もこちらに合わせて語数指定になってくれることを期待していたのですが、そちらは文数のままでしたね。

 

 全体的に見ると、通常問題の書かせる量が減ったので、学校選択問題とのギャップが開いたかな、というふうにも見えますが、通常問題も「英文を読んで書かせる」という統合的な問題になっている分、むしろこれまでより難化したとも言えます。まぁ、指示文で何を書くか明示的に書いているのでメールを読まなくても問題には答えられますので、あくまで形式的には、ですが。

 

 最低ラインが5文3文になったことは、多くの埼玉県の英語の先生方にとってはショッキングな出来事なんじゃないかと思います。多くの生徒が(そしてあらゆる習熟度の生徒が)受験する公立高校入試の問題に「5文以上」という設定があることで、ここを3年間の1つのゴールに設定していた先生も多かっただろうと思うからです。そういう意味では、「書く量は3文でもいいから、何かを読んでそれについて書ける」を次の全員が目指すゴールにしてくれよ、という県からのメッセージなんだと考えることもできるかも知れません。新学習指導要領の「思考・判断・表現」につながる感じですし。

 

 埼玉県は、他県に比べればまとまった内容を書かせているほうだと思います。だからこそ、埼玉県がどういう問題を提示していくかは、埼玉県の受験生だけでなく、中学校の英語教育が何を目指していくのかを考えるためにも、何かしら意味があると思っているので、今後も注目していきたいと思っています。