イングランド・スコットランド放浪記5

6日目 8月25日(木)「ダフタウン→アバディーン→ロンドン」

 朝食を済ませすぐにチェックアウト。アバディーンに向かいます。10時55分までにレンタカーを返さなければならないので、少し焦り気味。まぁ、余裕を持っては出たのですが。相変わらず雨は降ったり止んだり。薄暗いスコットランドの空の下、最後のドライブが続く。運転ご苦労さん、Hくん。
 あっという間にハントリーを抜け快調に進んでいましたが、アバディーン市内に入ったところで、ぼくの華麗なるナビゲーションですっかり道を間違える。ごめんよ、Hくん。

 市街地は本当に分かりづらい。車を借りるときに返す場所の地図を教わったし、地図も買ったけど、分かりづらい。やっとの思いで探し当てた道沿いに、レンタカーオフィスはない。結局通りの名は同じでもロードかアベニューかで2つ存在することが判明。あのおばちゃん違った方を教えやがった。空港の早口のおばちゃんを呪う。

 結局車を返せたのは10時50分。あぶなかった。あんなに余裕を持って出たのに。何があるかわからないものです。総走行距離は297マイル。約476キロです。結構走りましたね。ご苦労さん、フォードフォーカス。

 オフィスからアバディーン駅までのタクシーを長い間待ち(もう待つのは慣れたけど、それにしても待ったなぁ)、今度は駅でロンドン行きの切符を手配。緑の窓口で切符を買おうとすると、受付のおばちゃんが「往復で買った方が安いよ」と言う。それはありえるだろうと思ってはいたが、アバデーン〜ロンドン間は片道で110ポンド(約22000円)、それが往復だと何故か99ポンド(11800円)になるという。「往復で」だから、片道に換算すると半額以下ということになる。もちろんロンドンから再びアバディーンに戻ってくることはないのだが、帰りの切符を使わなければいいだけのことなので、往復を購入。

 「ほらね、こっちの方がお得でしょう? さっきの紳士は『私はお金をセーブ(節約)したいわけじゃないんだ』って言ってわざわざ片道買っていったけど、好んでそんなことする必要ないものねぇ」と言っておばちゃんはチケットを渡す。

 アバディーン駅は大都市の割りにのんびり。駅舎内を海鳥が歩いている。カフェで紅茶を飲みながら電車を待っている。この時は、このロンドンまでの旅がそれほど過酷であるとは思いも寄らなかった。

 アバディーンを出てエジンバラに向かう列車はやはり先頭を向いて左側に席を陣取るのがオススメ。セントアンドリューズあたりの海岸線を南下していくので、左側の窓には果てしない海が広がる。小さな土手や林、そしてぽつりぽつりと並ぶ民家の陰に遮られながら、時々顔を出す蒼い蒼い海。スコットランドの海はどこも群青色なのだけど、今日の水面は朝日に照らされて少しだけ明るく輝く。イングランドが近づくとこの輝きも変わっていくのだろうか。

 エジンバラでは乗り換えがあるらしい。駅員にちゃんと聞いてこなかったが時刻表によると乗り換え時間は2分。それを逃したら1時間はなさそう。エジンバラが近づくといやでも緊張感が高まる。やがて古い町並みや教会の尖塔が見えてくると、みな立ち上がり、スタートの構えに入る。みんな同じ。エジンバラで次のロンドン行きに乗り換えるのだ。
 電車が止まり、ドアが開くと、一斉に改札に向かって走り出す。改札を出て振り向くと電光掲示板をチェック。「キングスクロス行き、11番線!」 Hくんにそれだけ叫ぶと、今度は11番線を探す。結構離れているようだ。駅構内を駆け足気味に急ぐ。スーツケースのタイヤが馬鹿になりかけていて、何度かケースだけ転倒する。急いでいるのに。そしてエジンバラ駅のサプライズはやはり道路。駅の構内を道路が通り抜けている。車が普通の道路のようにびゅんびゅん走り抜けていく。信号を待たず、車が途切れた隙を縫って11番線へ。急いでいるんだから。

 やっとの思いで到着。苦労の末席を確保。進行方向じゃないけど、ぜいたくは言ってられない。「いやあ、よかったよかった」と言ってホームの電光掲示板を見やり不安になる。「ねぇ、アレなんて書いてある?」 Hくんにもよく見えないらしく、デジタルビデオで双眼鏡代わりにズームズーム。

 「プリマス行き」
 
 二人の表情が強ばる。え、ロンドン行かないじゃん。次の瞬間車内放送が流れる。
 
 「えー、11番線って書いてあったけど、やっぱり1番に変更しまーす」
 
 放送が終わる前に一斉に立ち上がる人たち。ほとんどの人がロンドン行きだと信じて疑ってなかったようだ。荷物を持って今度は1番線へ向けてデッドヒート。またあの道路も渡らなくちゃならないし。ふぅ。

 1番線に着くと、さっきより人が増えていたような気がする。こんなに乗れるのか? そして思い出す。最初の予定ではエジンバラを1日巡ることになっていたことを。国際フェスティバルも開催中で何かと楽しそうだったのだ。ところがそのフェスティバルが相当の人出が予想されており、市内では宿の確保も困難という情報があり、ハイランド(スコットランドの北部地域)での滞在を延ばしたのだった。乗り換えだけじゃなく、エジンバラから乗り込む人もたくさんいるだろう、ってことを忘れてた。

 結局席は確保できたものの、今時珍しい喫煙席。愛煙家のHくんも眉をひそめる劣悪な環境の中、ロンドンへの旅は続く。でも時々空を眺めたり、暮れゆくイングランドの大地に見入っていると時間はあっという間に過ぎていく。一冊だけ持って行った厚めの文庫本の最後のページをめくる頃、列車はキングスクロス駅に到着。ハリー・ポッターゆかりの駅だけど、壁にぶつかってみることもなく(笑)、とっとと退散。最初と同じアールズコートのメイフラワーホテルに宿泊。移動以外何もしなかったわりに、時間の感覚も文章も長い一日が終わる。