Documentary / 秦基博

Documentary

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 秦基博の3rdアルバムです。

 3枚目のアルバムってなんとなく音も曲も声も「まとまってしまう」傾向があるように(勝手に)思ってるんですけど、秦くんの3枚目は野心的に「広がっている」アルバムだと思う。この直前に出たアコギ一本のライブ盤をずっと聞いてたからなおさらそう感じるのかもしれない。

 勢いのある「透明だった世界」や、ポップでファンクに仕上がっている「猿みたいにキスをする」は、これまでなかった路線で、ライブでのパフォーマンスの幅も広げてくれそうな楽曲。それも「何枚もアルバム出したバンドがマンネリを恐れて手を出してしまった苦し紛れ感」が漂わないのが不思議です。まだまだ彼自身が成長段階にあることをぼくらが感じているからかな。

 それにしても、秦基博の声はおもしろい。1年中いつ聞いても心地よい声なのだ。春にさわやか、夏に涼しげ、秋に切なく、冬にあたたかい。これって不思議だ。ぼくはradioheadが大好きだけど、彼らの曲は秋〜冬が一番映えると思う。そういう「旬」が音や声にもあるんだと思ってた。

 そして、彼の声はまるで「エレアコ」のよう。アコギの持つアナログな「あたたかさ」や「ざらつき」と、エレキの持つデジタルな「ひずみ」と「ポップさ」が入り乱れた感じ。そういう何かの「あいだ」にある声なんだよなぁ。自分には絶対に出せない声だから、すごく惹かれるのでしょう。

 いろいろな世界を旅するアルバムもラストの「メトロ・フィルム」でいつもの秦基博ワールドに帰着。安心して冒険が楽しめる一枚です。このアルバムは部屋で聴くより、車の中で聞くより、「メトロ・フィルム」のPVのようにiPodなどに詰め込んで街を歩きながら聴くのがオススメ。「イヤフォンの中の音楽」が街の景色の色合いを自分が歩くスピードで変えていってくれるのを楽しめます。