中学生にもっと和文英訳を

 TMRowingさんのブログ記事に刺激を受けて、久しぶりに「パラグラフ・ライティング指導入門」を手にとって再読。そういえばこの本についてまだ書いてませんでしたね。あとでレビューが書ければとは思いますが、オススメの一冊です。個人的には、中学校の先生方にもっと読んでもらいたい本です。

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

 さて、高校入試で最近増えてきている「自由英作文」問題は、「自分の身の回りのことや自分の考え+理由などを5文程度の英語で書くことができる」みたいなことを、中学校3年間の英語学習のひとつのゴールを間接的に指導者と学習者に示している形になっているので、これによってあちこちの中学校でライティングが取り入れられるようになってきたこと自体は評価できると思います。特に、毎年ちゃんと公立高校の入試問題で5文書かせる埼玉県は(それを採点する高校の先生が)偉いなぁと思っています。

 もっとも、その採点基準は謎に包まれていて、同一の問題を様々なレベルの入試問題として扱うからには、「それぞれの」観点や規準があるんだろうなぁとは思います。だから塾なんかでは、「進学校は減点方式だから、無駄な副詞とかつけないでシンプルに書け」なんて指導をしている場合もあります。もちろん学校の事情によっては「スペリングや文法は間違っててもいいから、とにかく何かいっぱい書いとけ」なんて場合もあるでしょう。学校ごとに観点や規準を示してくれたら嬉しいですけど、それはまぁ難しいでしょうね。

 これは当然「最善の答え」が存在しないということが、この問題の扱いを難しくしているわけで、上記のように必ずしも生徒の英語力を伸ばすための手段として、このテスト問題が機能していないことを意味しています。もちろん入試は「選抜のための手段」ではありますが、中学校教師の立場としては、そのための受験勉強は「生徒の成長のための手段」であって欲しいと勝手ながら願ってしまうのです。

 そう考えると、高校入試で本来扱うべきは、自由英作文じゃなくて和文英訳なんじゃないかと思います。

 私が高校生の頃は、英作文といいつつ和文英訳(いわゆる「英借文」)ばかりやってて、その先に自分で考えて書くような実践が不足していたように思います。その反省からか、今度は「自由に」書くことが、一気に中学レベルまで降りてきてしまったのかもしれません。でも、「英借文」を繰り返してきた高校生と違って、文法事項の定着もあいまいで、語彙も少ない中学生が、「和文英訳」のような訓練を経験せずに果たしてどれくらい「自由に」書けるんだろう、とも疑問に思います。

 仮に入試が和文英訳にシフトしたとしても、もちろん中学校でも「自由英作文」も設定するべきだとは思います。でもそれは入試ではなく、授業の中でしっかりと指導すべきだと思います。(入試から自由英作文が消えてしまったら、授業でやらないようになってしまう、という心配も当然あります) むしろ、そんな「自由英作文」を書くための体力作りとして、もっと中学校の授業に「和文英訳」を取り入れてみたらどうだろう、と思うのです。インプットとしての和文英訳、といったところでしょうか。

 高校レベルだと、日本語が異常にトリッキーなタイプの和文英訳が多かったので、「英語の前にそもそも日本語勉強しろ」みたいなことになったりもしていましたが、中学レベルでやる分には基本文を中心にもっとシンプルにできるんじゃないかと思います。何より「教材」が用意しやすくなりますし、学習者が「そのために何を勉強すればいいか」がわかりやすくなるのも魅力です。「自由英作文の教材」って、成立しづらい部分がありますから。

 また、「英文解釈や訳読(英文和訳)を通して『ことばへの気づき』を!」という提言もありますが、そこで生まれる「日本語を中心とした『ことばへの気づき』」よりも、「和文英訳」を通して生まれる「英語を中心とした『ことばへの気づき』」の方が、この教科の本来目指すところなんじゃないか、とも思います。(だからって「訳読は国語の時間にやれ」とまでは言いませんが(笑))

 ライティングは、ゴールであり、手段であると思います。だから、私は和文英訳にもその両方としての価値を求めています。

 ゴールとして考えれば、極端な話、教科書の訳文が載ってて「全部英語にしなさい」って言われて英語で書けたら、それって中学生としたらとってもすごいことじゃないか、と素直に喜べる。手段として考えれば、そこで「ある程度答えのあるライティング」を経験したことで、生徒たちが本当の意味で豊かな英作文ができるようになるという「もう1つのゴール」に近づける。

 どちらかというと、「自己表現」という言葉のせいで中学校では特に「特別活動」的な位置づけになりがちなライティング活動ですが、(もちろん結果としてそういう教育効果があるにしても)もっと英語学習としての根本的なところで、英語の授業の中心になれると思うんだけどな。その足がかりになるような「中学生向けの和文英訳」の実践を積み上げてみたいなぁと思っています。

 ああ、こういうことをいろいろと考えてると、「授業したいなぁ」って思ってきちゃうんだよなぁ(笑)