ことばの力学 ー応用言語学への招待 / 白井恭弘

 白井先生の新刊が出たとご本人のTwitterで知り、さっそく購入。そして読了。春休みなので、少しだけ本を読む時間が取れてよかったです。

ことばの力学――応用言語学への招待 (岩波新書)

ことばの力学――応用言語学への招待 (岩波新書)

 そしてこの本、とっても面白かったです。

 いわゆる狭義の言語学の枠を飛び出し、主に社会や権力(パワー)と「ことば」の関連を考える「応用言語学」の概論的な内容で、ご本人もあとがきで書かれているように、ちょっとした大学のテキストにもなりそうです。

 メディアとことばの関係の部分では、私の好きな広告表現の在り方を考えさせられましたし、政治とことばでいえば、やはり震災と原発を巡る政治家や政府のことばを思い返します。また手話や言語障害などの話は、大学院時代に発達心理学の授業で読んだ内田先生の本を思い出しちゃいますね。「メタファー」の話も面白い。こういう話、好きなんだなぁ、と改めて感じました。

発達心理学―ことばの獲得と教育 (岩波テキストブックス)

発達心理学―ことばの獲得と教育 (岩波テキストブックス)

 英語教員であればもちろん面白く読めますけど、先生の前著である『外国語学習の科学』もそうだけど、こういう本って、言語学や教育に直接関わらない人にこそ読んでもらいたい本ですよね。そういう意味で、岩波新書というパッケージで世に出ていることにすごく価値があると思います。

 一般の人たちに教育を啓く本は、教師ではなく、教育「産業」の人たちがその口で語るものが多く、残念に思うものも少なくありません。そういう意味では、教員が書いた教育の本が、本屋さんの「教育」とか「語学」っていう書架にだけ並んでいるうちは、教員の思いや願いや叫びは一般の人に届かないだろうと常々思っています。例えば金谷憲先生の『英語教育熱』みたいな本が、新書パッケージで出てくれればいいのに、と思っていました。

外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)

英語教育熱 過熱心理を常識で冷ます

英語教育熱 過熱心理を常識で冷ます

 今回の白井先生の本は、もちろん一般的という意味では少しレベルが高くて読み手を選ぶかも知れませんが、教師のプロフェッショナルとしての叡智が、冷静に書かれている良書だと思います。結構売れているみたいなんで、なんか嬉しいですね。

 白井先生はもともと埼玉県の公立高校で教えていた方ですので、すごい先生なのにとても身近に感じます。Twitterやブログの飾らない(というかかなり力の入ってない)文体が、本書のまじめな語り口とまたギャップがあって、面白いところでもあります。