サッカーと人種差別 / 陣野俊史

 浦和レッズのJapanese Only横断幕事件。

 ダニエウ・アウベスの「バナナ事件」を見て「海外は大変だよなぁ」なんて言ってられない事件が、日本でも起きてしまいました。まさにそのスタジアムによく足を運んでいた人間としてとても残念に思うのと同時に、その横断幕を前にして自分には何ができただろうかと自問します。

 書店でたまたま手に取った本書では、評論家の陣野氏が主に欧州サッカーでの人種差別事件を、それぞれの選手の生い立ちや社会背景を踏まえて紹介しています。肌の色に関する差別を中心に、それも含めてのゼノフォビア(外国人嫌悪)であったり性差別であったりホモフォビア(同性愛嫌悪)であったり、サッカーを通して社会の変化や課題を探ります。様々な選手たちが、それぞれの闘い方で差別と向き合っていく姿が語られています。

サッカーと人種差別 (文春新書)

サッカーと人種差別 (文春新書)

 中でも、ジョン・バーンズという選手の話がしびれました。

 バーンズは私の好きなリバプールというイギリスのサッカーチームで1987年から約10年間プレーしていたジャマイカ出身の選手です。凄惨な差別を受けてきてなお、白人だけでなく黒人も差別に関して学び直さなければならない、と訴えます。この人の話をもっと読んでみたいと感じました。原書で読んでみるかなぁ。

John Barnes: The Autobiography

John Barnes: The Autobiography

 差別の歴史を「できるだけ平明に述べ」たいと語る陣野氏は、事実を淡々と綴る各章のおわりに個人の感想を少しだけ書いていますが、これがどことなく唐突な感じもします。途中、専門のフランス文学の話なども絡めながら、終章では「コスモポリタン」や「アウトサイダー」であることの大切さを説きます。ここまで読むと、やっと唐突な彼の感想がつながってくる感じもします。

 個人的にはとても興味深い本だったので、本書で度々紹介されていた関連書も注文してしまいました。これから読んでみます。

アナキストサッカーマニュアル―スタジアムに歓声を、革命にサッカーを

アナキストサッカーマニュアル―スタジアムに歓声を、革命にサッカーを

 さて、(よしあしは抜きにして)「グローバル」という言葉が教育の分野でも語られる世の中になってきて、国や人種という概念が相対的に小さくなっていくのかと思いきや、今まで以上にいろいろなことに不寛容な人も増えてきているように思います。サッカー選手は活躍の場が世界中に広がり、一足先に職場がグローバル化されていると言えますが、それを支えるサポーターやその地域の人々にとっては、まだまだ準備ができていないのが現状かもしれません。

 グローバルと聞いて「世界に出て行く」ことだけが念頭にあると、「世界からやってくる」ことが受け入れられないのかも知れません。異質な人々とどうつきあっていくか。どうやって一緒に新しいコミュニティーを作っていくか。その際の壁は別に「外国人」や「肌の色」に限らないように思います。隣の人の頭の中は「異文化」ですから。

 本書が度々指摘するように、Japanese Onlyの横断幕が生まれてしまう土壌はスタジアムではなくて日本の世の中全体に潜んでいるのでしょうから、「サッカーサポはこれだから…」なんて言わないで、みんなで向き合っていく問題だと思います。