[院生日誌] いつでも、なんでも、ヒップホップで

 演習の授業では、英語の歌を題材に、実技指導を受けています。

 メロディーに乗せて本格的に歌う前に、音程を消した歌詞をヒップホップ風に吟じる練習法をやってるんですけど、日頃の音読や会話はボロボロな私でも、歌ならできそうな気がしてて内心楽しみに臨んだんですが、あえなく撃沈。おかしいなぁ。「メロディー抜きのヒップホップ風」は私自身も授業でやってたから、できそうな気がしてたのになぁ。

 しかし指導の最中によーく観察して、手順を分析してみると、現象としては似ていても、ぼくのやり方とS先生のやり方はアプローチの方向が根本的に異なることに気がつきました。

 ぼくがやっていたのは言ってみれば「引き算アプローチ」。

 本来の歌からメロディーだけ消して、リズムだけを意識して歌う方法です。その曲を普通に歌えるようになれば、音程を意図的に消してフラットにするだけなので、慣れればすぐにできる方法かと思います。ただし、幾分かセンスに依存している気がするし、その歌ごとに練習して身につける必要があります。

 それに対して先生がやっているのは「足し算アプローチ」。ひとつひとつ要素を足しながら(レベルを上げながら)、本来に歌に迫って行く感覚です。

 まず、文の音節の数を意識しながら手でリズムをとる。で、それを拍数によっていくつかのパターンのリズムに乗せて繰り返すんだけど、その時に拍数が合わなければ、文脈に応じて言葉を足したり、引いたり、繰り返したり、クロスオーバーしたりさせてる。ここが難しい。歌いながらも、意味と拍数と言語形式を意識してないとできないんです。

 ポンポンメソッドでリズムに歌詞を当てはめると、お経のようになってしまいます。これを、本来の歌に近い形にファンキーに崩していく。正確に言うと、音節ベースなポンポンから、文の中の意味ベースでのポンポンにシフトしていく。やがて、チャンツっぽく歌っていたはずなのに、いつのまにか自然に歌っているようにしてしまう流れは圧巻です。表現力の前に、言葉の構成要素をしっかりと(瞬時に)把握している必要があると思います。ここができるようになりたい。

 このアプローチのいい点は、基本的なスキルが身につけばどの歌でも同じようにできること。足し算で積み上げていくから、パターンが変わっても、自由に組み替えができるわけです。さらにいえば、必ずしも歌である必要もなくなるわけです。(←というか、最終的にはここが大切なんだと思う)

 これは、なんとなくピアノの演奏に似ている気がします。ぼくは小学生の時にちょっとだけピアノを習っていましたが、楽譜を見ながら弾くのがすごく苦手でした。そんなぼくは何度も何度も練習して、指が勝手に動くようにして乗り切ってました。でもこれって、「その曲が弾ける」ようにはなるけど、「ピアノが弾ける」ようにはなってないんですよね。

 それに対して、ちゃんとピアノが弾ける人は、楽譜を見ながら、自分の体を(手を)適切にコントロールできてる。もっというと、音やリズムの仕組みを理解しているから、初見の曲でもすぐに弾けるようになるし、もっと熟達している人は弾かなくても曲を思い浮かべることができます。

 この差って何なんだろう、といつも感じていました。単純な努力量の差なのか、センスの差なのか、その人の傾向というか特性なのか、つまり努力をすれば、向こう側に行けるような類のものなのだろうかと。

 ただ、これまでピアノと同じように、題材ごとにその場その場で対応してきた私ですが、1ユーザーとしてはともかく、教師の立場としては、もっと根本的な英語運用能力を身につけなくてはなぁ、と実感しています。

 生徒たちの中にも、様々なリズム感覚が混在していると思います。自分が今苦労して身につけている過程から、同じように苦手な(あるいはそういう感覚に慣れていない)生徒たちにとってブレイクスルーになるようなポイントを見つけて行きたいとも思っています。

 そして、この「即席ヒップホップ」が熟達した暁には、ぜひ高円寺駅前あたりで謎のヒップホップグループとして、ストリートパフォーマンスに挑戦してみたいです。リリックは全部中学校教科書なヒップホップ、なんてすごくクールだと思いません?(笑)