生徒が嫌がる掃除場所を一番人気にするハック

 掃除をやらない子がいればもちろん指導しますが、できれば怒鳴らずに「みんなが掃除をしている」状態にしておきたい。「やらないと怒られるから」という怯えではなく、できることなら「掃除も楽しい」と思わせたい。

 でも、生徒たちが担当する掃除場所は、どこも楽しい場所とは限りません。少し前にTwitter上で現役中学生による「生徒が掃除をするべきか」論争もありましたけど、確かに全員で一斉に掃除をするには、結構不都合が多いです。教師の監督も清掃用具も、場合によっては「清掃させるべき場所」も足りない。だから個人的には、全員で一斉にやらなくてもいいんじゃないかとも思います。でも「業者にやってもらう」とか「当番制にする」といった方法をあまりとらないのは、予算や指導教員の数や時間などといった、学校側が都合だとも思います。

 でも、他の項目と天秤にかけると、それはそれで仕方のない妥協かな、とも思います。で、私としては、与えられた条件の中で、少しでも気分よくやりたいし、学校にもきれいになってもらいたい。ということで、あれこれ考えてやっています。

 生徒が嫌がる掃除場所に、どうやって取り組ませるか。

 今の学校で言えば「廊下掃除」が不人気です。掃除スペースはそんなに広くないから履いて拭くだけならすぐ終わってしまう。水拭きだし、北側で陽が当たりにくいので冬場は寒い。トイレ掃除は(多少)派手に水が使えるのであれはあれで楽しそうだけど、廊下はバケツ1杯の水なので地味。冬場は特に敬遠されがちです。

 なので、私は年度当初の4月・5月は私が廊下掃除を担当します。他の誰にもやらせません。

 6時間目の授業が終わると真っ先に教室に戻ってきて、掃除を始めます。廊下をひとりで履き、ひとりで拭きます。そして、スポンジとクレンザーで地道に床を磨きます。すると廊下の端っこから1日10cmくらいずつ、白くなっていきます。これが気持ちいい。

 生徒たちは優しいので、私が床を磨く姿を見て、廊下を綺麗に使おうと声かけしてくれます。そして掃除中や掃除直後は、綺麗になっている白い部分を踏んではまずいとジャンプして飛び越えてくれます。(というか、生徒の目に付く入口付近から白くしていくのもポイントです)

 しばらくすると、あまりにも私が楽しそうにやっているので、生徒たちは「廊下掃除やりたい!」「手伝います!」と言い出します。心の中でニヤリとしますが、ここで妥協してはダメです。私は心を鬼にして「ダメ」と言って申し出を断ります。「こんな楽しい掃除場所、他の人にはやらせられない」って(笑)

 そうして1学期の後半になって初めて、他の場所で「掃除をがんばっていた人」を「廊下掃除」にスカウトしてきます。「一緒に、床を磨かないか?」って。そうです。一番不人気だったはずの「廊下掃除」が「ご褒美」になるわけです。昔、働かない子を罰として連れてきて一緒に掃除させたことがあったんですが、それではやっぱりダメでした。「ご褒美」ってのがポイントですね。

 やがて2学期になると、クラス1の精鋭チームが廊下を担当するようになります。

 これで、私の仕事はおしまいです。このあとは一般の生徒たちに担当させても、廊下は一番人気の掃除場所になりますから、寒い中でも冷たいぞうきんを絞って床を拭いてくれるようになります。実際やってみると、床が白くなっていく喜びを一番感じられる、楽しい掃除場所だと気づくでしょうし。

 そして今度は、その時点で「一番不人気」だったり、「遊んでる人がいる」掃除場所があれば、そちらに行って「私だけの掃除場所」にしてしまいます。そして楽しそうに掃除をしている姿を見せる。この繰り返しです。

 今の学校の子たちは、結構よく掃除をしてくれると思います。でも本当に綺麗になる喜びを味わうためには、もう少し清掃用具が充実するといいなぁとは思います。生徒のモチベーションを上げるために、担任教師が自腹で清掃用具を買い足してたりもする現状を考えると、「清掃業者にやらせろ」なんて大きなこと言いませんので、まずは「清掃用具を十分に買えるくらいの予算」を配分してもらえるとうれしいです。

 どうも行政側には、本来広い意味での「教育」にかけるべき予算をかけずに、生徒と教員の労働力で賄ってしまおうという感じが見受けられます。 「教師使えばタダ」なのは確かなんですが…。

1/25加筆

 この記事には、Twitterなどを通していろいろな反応をいただきました。こういうのを「トム・ソーヤ式」って言うんですね。有名なエピソードだというのに、お恥ずかしい話で、その逸話を私は知りませんでした。英語の教科書の教材にもなっていたとか。

 罰としてペンキ塗りをしなければいけないトムは、自ら楽しそうにペンキ塗りをすることで友達を集めたものの、「手伝うよ」と言った友達の申し出を断ります。やがてみんなが「お菓子をあげるからペンキ塗らせて」と頼むようになり、結局トムはお菓子をたくさんもらった上にペンキ塗り作業を早々と終わらせてしまった、というお話。ここでも「一度断る」というところがポイントでしょうか。

 学校によってはこんなほのぼのしたやり取りをしている余裕のないところもあると思います。私もホウキを持って生徒を追いかけ回していた年もありました。1年生のうちから、こういうノリで習慣づくりをしておくことで、いい環境やいい関係を築いておきたいなぁと思っています。