「英語教育、この一冊」

 さて、すでにまとめ記事にはいろんな書籍に関する記事が集まってきてて、一読者として読んでてすごく楽しいんですけど、じゃ自分は何をご紹介するのかって考え始めるとずいぶん悩んでしまいました。なので今回も企画者自ら「後出しじゃんけん」になっちゃいましたがお赦しを。

 誰に向けてどんな「一冊」を選ぶかはその人次第なんですが、私は自分にとって思い出深い、教師としての自分を助けてくれた懐かしい「一冊」にしようと思います。この本は私は自分が今こんなブログで自分の実践を公開していることのきっかけになった一冊でもあります。

 それは『言語活動成功事例集』(開隆堂出版)という本です。

日本語・英語解説による言語活動成功事例集―Communication activities

日本語・英語解説による言語活動成功事例集―Communication activities

 大学を出て臨時的任用教員として奮闘していた頃の苦労については拙著でも少し書かせていただきましたが、明日の授業どうしようと(まぁ今でも少なからずそうですけど)自転車操業してた頃に出会い、何度も助けられたのがこの本です。

 形式としては、左側ページに日本語で、右側ページに英語で、いわゆるアクティビティーの内容紹介と手順が載っていて、必要に応じてワークシートもついているという、いわゆる「ネタ本」です。今でこそマニュアル本なんかに頼ってちゃダメだ、もっと教員が自分でいろいろ考えなきゃ、なんて偉そうなこと言ってますけど、ぼくだって駆け出しの頃はこういう本に本当に助けられてました。

 それぞれのページの上部には活動について簡単なカテゴリ分けがされていて、例えば

Level: 初級〜中級
Purpose: Listening, Speaking
Materials: ワークシート
Usage: 授業の中での活動(新しい表現の導入)
Time: 準備 20分 活動 10〜15分

なんて分類がなされています。わかりやすい。

 その下には、アクティビティーをおこなう上での手順が箇条書きで書かれています。この手順の部分が日英併記されてるのがとても便利で、T.T.をするALTに説明するのも楽だし、なにより生徒に英語で指示を出す際のよい「表現集」になっていたと思います。

 今改めて読み返してみると、この本で紹介されているネタは「連想ゲーム」や「かるた」「しりとりリレー」など、正直言ってかなりベタな(一般的な)活動ばかりです。それでも中には今でも愛用している"Pictionary"のような(今思えばとってもFonF的な「タスク」とでも呼べそうな)優れた活動も紹介されています。

 さて、この本に助けられた私は、こういう面白い活動のアイディアをもっとみんなで手軽にシェアできないものだろうか、と考えました。当時「ホームページ」なんかをHTMLで書いてた私としては、いわゆる「ホームページ」の「掲示板」のような機能を使えば、こういうアイディアを蓄積して、検索できるようなサイトを作れるんじゃないか、と思ったのです。

 さっそく私は、CGIという掲示板を作るための仕組みをちょっとだけお勉強して、自分のサイトを作ってみました。それは料理のレシピを登録、検索するためのサイトの仕組みをそのまま拝借してきたもので、

レベル → Level
料理の種類 → Purpose
材料 → Materials
調理時間 → Time

と前述の本におけるカテゴリのように、授業のアイディアを分類して登録できるようにしたのです。

 個人的には、かなりヒットなアイディアに思えました。これは面白い。だれでも登録できるようにすれば、いろんな英語の先生が自分のお気に入りのアイディアを登録してくれるようになって、すごいデータベースになるんじゃないか、とわくわくしたものです。

 ところが、結果は散々でした。

 当時はまだWeb1.0とでも言うべき時代。そんな個人サイトの存在が広く人に知られることはありませんし、そもそもネット上で教材研究をしようなんて英語教師がどれくらいいたんだろう、という感じです。サイトには、同期の友人がいくつか登録してくれただけでした。

 しばらく放置していましたが、やがてそのサイトも閉鎖しました。それでもなんとかネット上で英語教師が集う場所が作れないかと考え、数年後にこのブログを立ち上げました。人に頼るんじゃなく、まずは自分で実践を記録しよう。情報は発信するところに集まる。そう考えて、細々とでも書き続けました。

 やがて時が流れ、ネットがずっと身近な存在になり、教材研究のツールとして活用する人も増えました。自身の実践を綴る英語教師のブログも100を超えました。すごい変化です。こうやってみんなで同じテーマでブログを書こうなんて企画が成立するんだから、本当に感慨深いです。今なら、あのレシピサイトだって機能するんじゃないかな、とも思います。

 そんなわけでこの本は、私が英語教育に関してWeb2.0的なインタラクティブな場所を作ろうとするきっかけになった一冊なんです。この本に出会わなければ、このブログだって始めなかったかも知れません。そんな意味で、個人的にとても思い入れのある書籍なんです。

 さて、この企画のためにすごく久しぶりにこの本を開いてみて、さらにびっくりすることがありました。なんと著者をはじめこの本の執筆協力者のほとんどが、埼玉県内の中高で活躍する先生方だったのです。サークルなどでローカルにお世話になっている先輩の名前もちらほら。えー、当時はたぶんそんなのよくわかってなくて使ってました。今さら大感激です。

 あらためて、自分は地元に育てられていたんだなぁ、と再確認。なんとか少しでも恩返しをしていかなくてはなぁと強く感じています。