まわるまわるよ時代はまわる

 昨日は一日出張でした。しかも午前中は公開授業を3時間参観し、午後は地域の役員会議に駆けつける、と完全に「英語教育」漬けな珍しい一日でした。でも充実してました。

 さて、午前中に参観したのは、話題の「ラウンド制」を取り入れている県北の先進校。先日北部サークルに伺ったご縁でわざわざご案内をいただいたので、喜んでお伺いしました。出張で出してくれた所属校の管理職にも感謝です。

 「ラウンド制」は、横浜で始まった1年間で教科書を4〜5周する指導法で、リスニングで、音と文字をつなげて、音読で、とステップアップしながら、最後はリテリング+αまで高めていきます。次から次へと「新しいこと」を理解することに追われ習熟しないまま進む今のやり方から、「わかるようになったこと」を読んだり、言ったり、書いたりする、使用のためのお稽古に重点を置いたやり方にシフトさせようと、学芸大学の金谷先生を中心に各地で取り組まれています。

 この日伺った学校は、以前からラウンド制に取り組んでいて、昨日はもうリテリング(もしくはその復習)などの最終段階を公開してくれました。実は少し前にもこの学校は研究発表をやってくださってたんですけど、ちょうどそちらには伺えなかった身としては、今回公開してくださって本当にラッキーでした。

 さて、初めて生で参観した「ラウンド制」は、率直に面白かったです。

 そもそも「ラウンド制」の理念は興味深いし個人的には関心があったのですが、みんな同じシステムで授業をすることにはちょっと抵抗がありました。教師の個性が発揮できないように思ったからです。しかし、この日午前中の3つの授業を拝見して、印象が大きく変わりました。基本的なやり方を揃えたからこそ、授業者の個性や力量が顕になっているように思います。特に、生徒とのインタラクションやオーラルイントロ的な部分で、生徒の発話をどう引き出すかについては、本当に教師次第だと思います。

 技能的な面では、読むなら読む、聞くなら聞くに一定期間集中できるのが魅力的です。特に苦手な生徒にとっては、音読にそれだけじっくり取り組めるのは、学んだことがしっかり定着するための時間が確保されているように思うので、安心して取り組むことができます。とはいえ、飽きが来ないように工夫も必要でしょうね。その辺のお話も伺ってみたかったです。

 ポイントは「繰り返し」と「行ったり来たり」でしょうか。

 習った新出文型を使えるチャンスが何度もやってくるのは魅力的です。また、他の文法項目を知ったからこそ、使い方が見えたり、比べられたりすることも多いので、「とりあえず一通り触れてみる」ことができるのはいろいろ勝手が良いです。聞けたものを読む、読めたものを書く、という技能間のつながりも作りやすいし、会話文として読んだ英文を、物語文に再構築したりすることで、例えば代名詞を替えたりと、内容から形式に意識が動いていく感じもよいと思います。

 そして市教委の先生とも話したのですが、こういった取り組みは一個人では難しいです。せっかくの良い取り組みでも「あの先生に授業だけ…」とか「テスト範囲どうするの?」などと同僚問題に発展したり、保護者や生徒の不安も生み出してしまう恐れがあるからです。そういう意味で、導入に際してのご苦労もあるでしょうが、こうやって地域でみんなでやろうとしたことに素直に敬意を表したいです。(1学期の中間テストはリスニングのみで範囲は一冊、だったりしますから、地域の学習塾がどんな授業をしているのかすごく興味がありますw)

 一方でもちろん疑問点もあります。

 1つめは文字や文法の扱いです。

 特に1年生ではどのような段階で文字指導を入れているのか? 生徒が持っていた準拠ノートや教科書準拠ワーク類は、どんな風に使わせているのか? でもこの辺は、1〜4ラウンドについて紹介されているものを読めば解決しそうですね。

 2つめは教科書との距離感です。

 教科書のリテリングは私もよくやらせる活動ですし、中学生段階でできるようになって欲しいことの1つです。でも、あくまで内容を知っている人同士でのやりとりになるので、「言えた!」という喜びは体験できるけど、「伝わった!」という喜びは感じにくいのではないか、と思うのです。

 だからこそ、5ラウンド後は教科書から離れてもよいのではないか、と思います。実際にはそういうタスクにもチャレンジさせているんじゃないかな、と思いますが、参観者のためとは言え、ほぼ3月のこの時期でも教科書の内容に縛られてしまっているのはもったいないな、と思いました。

 生徒の発話を聞きながらずっと考えていたことは、生徒は何を支えにアウトプットしているんだろうか、という疑問です。教科書の内容を再生する際に使っているのは、これまでに何周もしながら自然に体内に取り込まれた教科書の英文なのだと思います。すると、どのくらいそれを逸脱できるのか、とても興味があります。

 そういう意味で、例えば「桃太郎」などの「おはなし」のような「すでに知っていること」などをリテリングさせてみて欲しいです。話者の頭のなかにある「これから話そうと思っていること」は、この「すでに知っていること」に似てるから、そういうのが表現できるのであれば、たくさんの練習を通して文法知識が内在化されて、自律的に英文を組み立てられている、と言えるかも知れません。

 さて、「ラウンド制」そのものの成果と課題は今後さらにシェアされていくでしょうが、私が個人的にいいなと思ったのは、このシステムが「すべての文法をただ順番に均一に教えていく」という現状から抜け出すきっかけになるのではないか、ということです。先日の北部サークルでもお話しましたが、私が「意味順」推しなのは、そこに理由があります。「使う」が前提になると、文法項目の扱いには自然に軽重がついてくるんじゃないかな、と思います。

 そういう意味で「ラウンド制」ありきの話ではありません。ただ多くの人たちに、今までの指導の常識と向き合って、時に破っていく機会を持って欲しいです。ボトムアップだとなかなか広がらないし、トップダウンだとやる気を削がれちゃう人もいるし、といろいろ大変なんですけど、新しい取り組みをおこなっている地域にはエネルギーがあります。そんなエネルギーをおすそ分けしてもらってきたような、一日でした。

 なにより生徒のみなさんが頑張って活動してくれました。そんな授業を、私もやらなきゃなぁ。私自身にとって、貴重なインプットの機会になりました。