「即興性」は何でできているの?

 さて、「話すこと」に関して書いていくシリーズの中で、今回は「やりとり」について。(前回の記事はこちら

 あ、どうでもいいですけど、新学習指導要領的には「やり取り」という表記なのですね。個人的にはひらがなの方が好きなのだけど、きっと検索でブログに辿り着く人もいると思うので、今後は不本意ながら「やり取り」で統一します。

 さて、その「やり取り」ですけど、学習指導要領解説によれば「『即興性』を意識した言語活動が十分ではない」という現状の課題を解決するために新設された項目のようです。でも、私の知る範囲では、授業中にそういった会話練習をさせている先生は結構多いと思うので「今さら感」もありますけど、多くの教室でおこなわれている活動に「居場所」が与えられるのは、よいことかなとも思います。

 そして、そうは言っても、まだまだ会話練習の活動を授業に取り入れていない先生もそれなりにいるのが現状でしょうし、「会話やってます」と言う方々の中には、「スラスラ英会話」「弾丸インプット」といった名前のスキット原稿を日本語から英語に瞬時に言い換える活動や暗唱みたいなものをやらせて終わっている先生もある程度いそうな気がします。

 本当の意味で「即興性」を備えた「やり取り」の力を伸ばすためには、どんな練習に取り組めばいいのか、私も試行錯誤している段階です。ただ、ここでも、「じゃないほう」が役に立つのではないか、とは感じています。

 というのも、「やり取り」となると、「相手」が存在するわけで、授業の中での多くの場合は、「相手」も英語学習者(つまり中学生)になるわけです。極端な話、「相手」がネイティブ・スピーカーであれば、話し手も英語が上手くなった気がするでしょうし、活動量も増えます。しかし、学習者の習熟度にバラツキがある公立学校だと特に、一律にペアでの活動をさせていくのは難しいと感じています。

 そこで、私なりに考える解決策は以下のとおりです。
 
(1)「相手」を教員が務めるようにする
(2)3人以上で活動する 
 
 (1)に関しては、当然ながら物理的な限界があります。40人の生徒に対して教師は1人。ALTが入っても2人ですから効率は悪くなります。ですから、教科書のオーラルイントロの場面や授業の最初のスモール・トークなどの場面で、何人かの生徒とでもインタラクションをしていく必要があります。

 そこで(2)の解決策なのですが、例えば4人組であれば、自分以外の3人の中にそれなりの英語力の子がいて、自分たちを引き上げてくれる可能性が(少なくともペアでやる時よりは)高まるだろう、という見積もりです。

 例えば、私が地域の先輩から教わった「プロジェクトI(アイ)」という活動があります。

 4人組の1人がメインの話し手になり、他の2人は質問者、残りの1人は記録者になります。質問者の2人は与えられたテーマ(例えば"Last Sunday")について、話し手にひたすら質問を続け、その答えを記録者がメモしていくという活動です。最終的には、記録者が書いたメモを話し手が受け取って、自分が答えた内容を基に家で英作文を書いてくるという宿題付きです。

 質問者が2人いるので、一人の力だけに左右されにくいですし、無駄な沈黙の時間が少しでも減ると思います。場合によっては、記録者もメモを取りながら質問してもいいことにすれば、さらに質問が途切れにくくなり、活動量が増えます。

 そしてこの活動中は、前の人の質問やそれに対する答えをしっかり聞いていないと、同じ質問を繰り返してしまったり、会話の流れを壊してしまったりするわけで、質問者には談話能力を磨く上でよいトレーニングになると思います。

 同じようなものとしては、2年生の3学期に取り組んでいるALTへのグループインタビュー活動があります。「しゃべくり6」と名付けていて、6人組のグループで、ALTをゲストに迎えて5分間の「トーク番組」をおこなう、という活動です。(詳細はこちらの記事でも紹介しています)

 この活動では予め「想定問答集」を作るので、グループで相談しておおまかな「台本」を作っておくことができます。とはいえ、相手のALTはその台本を見ていないので、そのとおりに行くとも限らない、スキットとも違う絶妙な自由度があります。

 だから活動中、ALTの答えに応じて、準備してある質問リストから「適切な」質問を選んで訊く、という「即興性」が鍛えられます。私の生徒たちは、英語の得意な生徒はアドリブでつないだり、苦手な生徒は"Anything else?"係になったりと、助け合いながら全員が発話できるようにやっていました。また、準備段階で流れを考えることが求められるので、知らず知らずメタ的に「談話能力」を学ぶ機会になったのではないかと思います。

 これは、このあいだの分類でいえば、ダイアローグ風でありながら少しだけpreparedという、まさに「じゃないほう」な活動です。

 静岡で見た「ビデオレター返信動画作成」より一歩だけimpromptu 寄りな感じ、くらいの難易度でしょうか。いずれも、最終的にちゃんとした「やり取り」にたどり着くために必要なステップなのではないかと思います。

 さて、ここまで書いてきて、「やり取り」で期待される「即興性」って何なのだろうと考えてしまいました。これまで私は「瞬時に英文を組み立てる能力」なのだろうと勝手に思ってましたが、実は次の質問を考える(思いつく)「談話能力」のほうが、大きなファクターなんじゃないか、と思うようになりました。

 そう考えると、impromptuでダイアローグ形式のいわゆる「やり取り」そのものよりも、どこかで学習者の負荷を減らしつつ、その分談話の流れにフォーカスできる「プロジェクトI」や「しゃべくり6」みたいな活動こそ、練習として大切なんじゃないかと思いました。

 ほら、やっぱり「じゃないほう」を大切にしたほうが、いいんじゃないですか?