博士の愛した数式


 原作を読まずに見た人には、心に深く残る映画になると思います。原作を読んでから見た人は、原作のよさを再認識するかも知れない。

 制作発表でも博士を演じた寺尾聡が言っていたように、結構変わっています。個人的には推理小説ではないんだから、あまり変えなくてもいいのになぁと思います。もっとも、追加されたエピソードは原作の雰囲気を壊すことなく、むしろ深める意味合いを持っているし、進行役として登場した数学教師(ルート)役の吉岡秀隆は、数学的な補足説明や、博士の人となりを「生」で説明するのにすごく役立っていたと思います。

 ただ、気になったのは、少し説明しすぎたんじゃないか、ということ。ルートの語りは生徒(観ている人)に向けられてるから、多少説明的なのは仕方ないけど(むしろそのためにそういう設定にしたんでしょう)、浅岡ルリ子演じる義姉と博士との関係を少し語りすぎていた感じがします。そこまで言っちゃうとちょっと野暮だろう、と。むしろ映像ならではのさりげなさで義姉の存在や思いを描くこともできたと思うのです。

 そして反対に映画では使われなかった原作のエピソードたち。一緒に餃子を作るシーンや、床屋に行くシーン、ラジオにまつわるエピソード、江夏のカードなど、話の筋から言えば大して意味はないかも知れないたくさんのエピソードが今回含まれてなかったのが残念です。どっちかといえば野球に話を絞ってたからしかたないですかね。

 基本的に淡々と語られる小川洋子の文章を、一生懸命に映像化していたと思いますが、映画にするのって難しいんだなぁと感じました。キャストはよかったです。深津絵里ってやっぱりいいですね。素な感じがとても魅力的です。