我が闘争

 大学院に入ってからというもの、「研究って面白いな」「学ぶって面白いな」、そう強く感じています。

 現場にいる頃も、「校内研修」や「研究委嘱」といったスタンスで、あれこれ考えたりすることはあったけど、まぁ当たり前と言えば当たり前だけど、全然質の違うものですね。

 誤解を恐れずに言えば、学校現場でおこなう「研究」は、答えが先に出ています。

 県教委から言われて「○○的な活動の実践」をテーマに取り組んだとして、3年後に「やってみたけど、効果ありませんでした」とはさすがに発表できない。いや、本来は当然そういうこともあるんだけど、そんな発表は見たことがない。

 たいていの場合、研究テーマは文科省教育委員会から降ってくるものだから、管理職がそんな発表を許さないでしょう。そして何より、大事な生徒を「実験台にした」とは言えないですから、公に発表するところでは言葉を選びます。だから、まぁせめて「少なくともこういう効果はあった」「こういうことが課題です」と控えめに報告するのが良識的なところ。もちろん、ちゃんと成果の上がっている研究もあるのでしょうが、それを見抜くには、やっぱり現場に行って生徒の様子を見ないと難しいですね。私はまだ任されたことはありませんが、全国の「研修主任さま」たちは、本当に悩みながら、がんばっていらっしゃるのだと思います。

 だから、校内研修というのは、成果を外に発表するのをやめちゃえばいいと思うんです。自分たちで共有できればそれでいいじゃん。その方が、つっこんだ研究ができるし、目の前の生徒たちのためになることに時間を割けると思います。ところが、たいていの「研究」は、その発表のためにおこなわれているという悪循環。そもそも出資先が「外」だから、対外的に発表しないというわけにもいかないんでしょうかね。うーん、悩ましい。

 そういう意味でいうと、今やっていることは、本当に面白いです。全国の研修主任さまたちに申し訳ないくらいに面白い。だって、純粋に「どうなるんだろう?」という好奇心を満たしてくれる営みなんです。それならばこの機会に、現場ではなかなか測りきれない「実際にところ」を、どんなに小さいことでもいいので科学的に解明して、現場にフィードバックしたいものです。「こう言われてるけど、実際はこうだったよ!」と伝えたいです。

 公立学校の教員をしていると、なかなか学習指導要領や県教委の方針に対して、(少なくとも公の場で)異議を唱えることは難しいです。もちろん、そういうことに捕らわれずに、自分の意見をぶつける方もいます。校内の研修会でも、もちろんいろんな意見が出ます。でも、それが表に出ることはあまりありません。

 専門誌であっても、学校名を背負って原稿を書くときは、やはり書けないことも多いです。少なくとも、今書いているようなことは書けません。私としてもあとでご迷惑をおかけしてもまずいので、学校名が出るときには、管理職に見てもらってから脱稿するようにしています。そんな閉鎖的なのもどうかなぁ、と思うこともあるけど、「教員」「公務員」という立場を考えるとある程度は仕方ないとも思っています。

 悪法も法なり

 生徒にそう指導している身で、(法的な拘束力はともかく)決まっていることを守らない、という姿を見せることは出来ません。だから、出来る範囲で闘うしかありません。

 もちろん、闘い方はいろいろあると思います。私が今思いつくのは3つ。

 ひとつは、現場での取り組み。実際に授業を変えていく努力をしなくてはいけません。どんな縛りがあっても、「いい授業」はできると思います。それぞれのベストを目指さなくてはなりません。私はまだまだ道に迷っていますが、歩みを止めることはないでしょう。

 ふたつめは、それでも自分の言いたいことを発信していくこと。残念ながら、私たちに与えられたチャンスは指導要領の告示前に(ひっそりと)おこなわれた文科省の「パブリックコメント」くらいでしたから、大きなチャンスを逃してしまった感があります。「その時」では遅いですし、本当に意味があるのか怪しいですから、「次のチャンス」のために今から現場レベルで意見をぶつけ合わせて、しかもそれを発信していく必要があるでしょう。

 とはいえ、前述の通り、少なくとも文字に残るところで、あまり深い議論ができる環境が整っていません。だからこそ、私にとってこのブログは、周りの方にあまり迷惑をかけずにそういうことができる貴重な場だと思っています。バレバレではありますが、一応匿名で綴っているのには、そういう意味があります。あくまでここでは、自由に語りたいと思っています。ブログやTwitterといったミドルメディアが、新しい教師の世論をつくる一角を担えればと願っています。

 みっつめは、まさに今の自分の立場を最大限に活かすこと。アカデミックなスタンスで、日頃の疑問や不満をひとつでも解決するお手伝いをしたいです。さすがにアカデミックな論文で何を否定しようが、「立場がどうのこうの」言われる筋合いはありませんから。貴重な時間と機会をいただいているんだ、と責任を感じています。

 何もしないでいたら、「我が逃走」になっちゃいますもんね。