広がる、ライティング指導の輪

 先日、KATEの月例会に行ってきました。発表者が「パラグラフ・ライティング指導入門」の田畑先生だったので、ぜひともお話を伺いたくて。今回は「ライティング指導の目標設定と実践ーCan-Doリストを活用した言語活動を通してー」というテーマで、お話を伺いました。

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

パラグラフ・ライティング指導入門―中高での効果的なライティング指導のために (英語教育21世紀叢書 17)

 田畑先生の話を聞いていて、自分に一番足りないと思うのは、こういう3年間(あるいはその先)を見通した幹になる指導計画。田畑先生の指導プランは卒業時をイメージして、それまでに使わせたい文法事項やトピックや形式などについて、3年間でバランス良く体験できるように、しっかりとバックワードデザインされています。そして、それぞれの指導も生徒が作品を仕上げるまでの手立てがしっかりと確立されています。「これおもしろそうだからやってみようか」という思いつきばかりで実践してきた私としては、本当に参考になるお話でした。

 中学校3年間のゴールの1つとしての「公立高校入試問題」についても話題に。千葉県の「会話問題の代替としてのライティング」と石川県の「論理的に書かせるライティング」とを比較・体験し、それぞれに向けての指導の在り方などを考えました。石川県とほぼ同じように「5文以上」で書かせる埼玉県で指導している身としては、県内の先生方と生徒のライティングへの意識が高い状況は、ある意味「追い風」と言えそうな気がします。ライティング指導の実践が数多く生まれることを願っています。

 あ、そういえば今年の埼玉県の前期試験のライティングはこんな感じでした。昨年の問題と基本的に同じ形で「キーワードを使って書く」タイプでしたね。

 昨年の"because"や"if"などの接続詞と違って、今年は"enjoy"と"have to"と"with"でした。助動詞がポイントなのだとすると、後期も助動詞は入りそうな予感。それにしてもenjoyって難しいよね。先日生徒の英作文を採点してても"Kyoto was very enjoyed."って誤答が多かったからなぁ。そして"enjoy"したことと"have to"することをどう1つの(たった5文の)テクスト内でつなげるのか。ちょっとトリッキーな気もします。

 話は戻って、KATE月例研究会。話を聞きながら思いついたことを脈絡もなく書き留めておきます。

  • お題を与えて→モデルを参考に→指導を受けながら→英作文を仕上げる、という手厚い指導でなんとか1つ作品を作らせて終わり、ということが多い気がする。そこでの学びを踏まえて、お題を与えて→自力で書いてみる、っていう経験が定期テストでしか与えられていないなぁ。
  • ライティング指導において、「マッピング」させたりするような下準備なんか授業中にやらせるのはもったいない、というご意見もありそうな気もするけど(もっと言えば、「授業中に時間をとって書かせるのももったいない」という声も)、中学生の現状を考えると、そこをみんなで乗り越えてあげないと、そもそもスタートできない生徒が多いだろうから必要な時間的コストなのかもしれない。
  • 行事にシンクロしたライティングお題って、「書きたいこと」や「書けること」がいっぱいあっていいんだけど、事情により行事に参加できなかった生徒とか、いろいろいるから扱い難しいよね。
  • よく「うちの学校も県平均を上回るように!」なんてノルマが課されることがあるけど、「県平均」は中学生に期待される学びとして適切な到達度と言えるのだろうか、という疑問。

 さて、会のあとの懇親会では「中学校でライティングって一番マイナーな研究分野だよね」と盛り上がりました(笑) でも、こうやってライティング指導を地道に積み重ねている方や、研究に従事している方にお会いできて、勇気づけられました。また、学生さんでもこういう会に足を運んで一生懸命勉強している方がいて、えらいなぁと思いました。ぼくが学生の頃は、そういうのに参加したことなかったからなぁ。いろんな方に出会えて、本当に実りある一日でした。このネットワークを今後も大切に育てていきたいです。

 あ、そんなライティング指導関連で、TMRowingさんが呼びかけている「ライティング問題再現答案プロジェクト」のお知らせです。高校生を指導されている先生方、ぜひご協力ください。詳細・最新情報はTMRowingさんのブログで

再現答案をアーカイブ化する、「ライティング問題再現答案プロジェクト」に協力して頂ける方を募集しています。

これは、受験産業等、web上、商業誌上で示される速報的な大学入試ライティング問題の模範解答の不備を補うべく、「英語教室の教師と生徒による」、「英語教室の教師と生徒のために」企画された、「英語教室の教師と生徒のもの」、としての再現答案アーカイブの構築を目指すものです。

いわゆる偏差値の高い国立大学の出題の模範解答は大手予備校のサイトなどweb上で見ることが可能ですが、必ずしも英文として自然でなかったり、出題の求めに充分には応えていなかったりするものも多く見受けられます。母集団の大きな伝統的進学校であれば、先輩たちの指導資料・学習資料が残っていることが多くとも、新設校や、進学者のそれほど多くない高校の生徒は、「お手本」や「参考」になる英語ライティングの実例をあまりにも知らないばかりか、指導する側にも経験が不足している場合がままあります。このような状況下で少しでも建設的な、健全な英語学習・英語指導を行うため役立てようというプロジェクトであります。

当面は、高等学校や予備校・塾に勤務する英語教師の方にご協力を呼びかけます。大まかな流れは以下のようになります。

• ご自身の受け持つ受験生に、実際に受験したライティング問題の再現答案を書いてもらう。

• 再現答案のうち、合格者の答案を集めて、大学・学部ごとにアーカイブ化する。

• 再現答案アーカイブには氏名・イニシャル・出身校・担当教師などの個人情報に関わる情報は示さない。

アーカイブは一定の手続きを経て、無料で誰もが閲覧でき、その後の教師による指導や受験生による学習に利用することができるよう保存・管理・公開する。

将来的に、英文としての適否・評価・助言などを加えていくことや、コーパス化して語彙リストやコンコーダンスラインを抽出するなどの発展もできるかとは思いますが、このアーカイブから、書籍化して商品化、教材化したりなどの「営利」に関することは一切考えておりません。その気になった時に、誰でも無料で使えるということを主眼としております。

母語話者に限らず、プロの英文ライターの方、日英語双方に堪能な方のご協力が得られればさらに心強いと考えております。