武器としての決断思考 / 瀧本哲史

武器としての決断思考 (星海社新書)

武器としての決断思考 (星海社新書)

 新書ブーム、ビジネス系自己啓発本ブームも完全に飽和状態の中、新たに講談社から独立して新書レーベルを立ち上げた星海社新書。なかなかどうして野心的です。

 紙面ギリギリまで文字を並べるデザインも挑戦的。スキャンしてデジタルデバイスに取り込まれることを前提としているのでしょうか。新しい技術や考えぬかれた戦略も見え隠れして、これまでネットメディアでのみ感じられた「若い世代の力」を持って、既存の巨大な紙メディアに殴りこみをかけてきた感じもします。

 さて、本書はTwitterでは結構知られる論客でもある京都大学の瀧本哲史先生(@ttakimoto)の授業をそのまま収録した構成で、ディベート的思考を自身のあらゆる決断のための「武器」として援用することを説く指南書。いわゆる自己啓発本が具体的な「テクニック」だけでなく「生き方」についてもある程度(しかも偏ったものを)押し付けようとしているのに対し、この本は具体的な「テクニック」をどう活かすかは、心構えやマナーについては説くものの、ある程度我々に委ねている感じが伝わってきます。

 だから、あまりビジネスに関わらず、日常のあらゆる「決断」や「議論」に活用できそうなノウハウが詰まっています。私の場合は院生という立場から、まるで修士論文を書く上での心構えや基本的な約束事を再確認しているような気分になりました。技術的な武器の使い方だけでなく、武器の使い手の側に謙虚さが求められることも実感。院生や研究者のあるべき姿ですね。

 5・6時間目で扱っている「正しさ」の見極め方や「情報収集術」あたりは、中学校教員としては義務教育段階の中学生にも伝えたい内容です。社会に出て(あるいは中学生のあいだにも)情報に無防備に晒される彼らに必要なスキルだと思うからです。総合的な学習の時間で教えるべき内容は本来こういうことなんだよなぁとも。

 競技ディベートの持つ「クールさ」というか「冷たさ」でもなく、学校教育で特別活動的に(あるいは道徳的に)用いられる教育的ディベート活動の持つ「曖昧さ」や「一過性」でもなく、もっと地に足のついた「スキルとしての教養」の持つ「謙虚さ」と「実用性」を感じます。ディベートに対する見方が少し変わった気がします。

 最後の最後は主観で決める。

 ひたすら論理的で客観的なものの見方を説いておいて、最後の最後にそんな当たり前のことを述べています。しっかりと限界を示した上で、その思考法の可能性を訴えるあたりに、筆者の余裕と言うか自信を感じます。あっという間に読み終わりました。

 同時発刊のもう一冊も読んでみようかな。

僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい