中学校での英文法指導を考える

「同じ」を教えるのか「違い」を教えるのか。

 「英文法指導」といっても、これまで取り立てて工夫をしてきたわけでもないので、具体的な効果的な手法などをご提案することはできないと思います。ただ中学生を教えていて、難しいなぁといつも感じていることを書いておきます。

 公立中学校で英語を教えている場合、「英文法」が身についたかを確認する手段(評価方法)は主に的テストの「言語・文化の知識・理解を問う問題」でしょう。穴埋め、並べ替え、英文和訳、書き換え、選択問題などなど、問題の形式は多様ですが、測れている側面はあまり幅がないようにも思います。

 実際、中学生向けのワークブックや高校入試問題で役に立つ英文法知識って、結局「何と何は同じ意味になるから書き換えができる」というパタンをいくつ知っているか、ってところなんですよね。中学生向けの熟語集を見てても、そういう書き換えの可能なものが「出る順」でも上位に来ます。

 生徒たちは受験に備えて、

be going to = will
have to = must
a lot of = many

みたいな組み合わせをとにかくいっぱい叩きこんで、(   )が3つだったら a lot of で、1つだったら many みたいなセンサーを必死に磨いてる。これも正直なんだかなぁと思います。(ただし、自分はそういうのを覚えるのが楽しくて、当時英語が好きだったんだよなぁ、とは思います)

 一方で、単純に日本語にすれば「同じ」ような意味だけど、使われる場面にもニュアンスにも「違い」があるんだよ、ってこともちゃんと教えてあげたい。高校に行って「中学の先生はウソを教えてた」って言われちゃうのも悔しいですから。

 だから文法の導入時に示す場面に差をつけて「違い」を伝えたりもするけど、入試などでそういった「違い」を問われることは(高校入試レベルでは)まずない。そう考えると、あまり混乱させるのもよくないからと「同じ」のベクトルを優先してしまいがち。どう整理して、どこまで教えるのがいいのかなぁ、といつも悩んでしまうのです。

 たぶん導入と練習の段階ではあまり差を強調せず、両方がある程度定着してきたところで「違い」を考えさせて、整理させたりするのがいいんだろうけど、そういうことができそうなのはちょうど中3の終わり頃だろうなぁ。うう、入試直前のそんな時期に、あえて混乱させるようなこともできないよなぁ。「『違い』はあるけど入試では『同じ』ものだと思え」なんて言い方はさすがにできないし。

 高校入試のない中高一貫校だったら、そういう「行ったり来たり」がいい時期にできて羨ましいなぁと思ってしまうこともあります。(実際の中高一貫校の中には、ただ単に前倒しで文法を叩き込んでる学校も多いので、そんな理想は叶わないのでしょうけど)

コミュニケーションのために英文法

 でも、こういった現状は、別に学習塾や入試問題のせいにばかりできない話で、中学校教員が買わせている教科書準拠ワークも基本的にはそんな作りだったりします。そして自分たちが好きに作れるはずの定期テストにだって、そういう問題を出している現実があります。だから暗に「そういうのが文法力なんだよ」ってメッセージを教師自身が生徒に送っちゃってるんです。

 だから、もっと違う方法や場面で「文法力」を測ってあげられないか。文法がもっと意味のあるものだと実感できる場面で測ってあげられないか、と思うのです。

 となると、やっぱりリスニング・リーディングといったインプット場面、そしてスピーキング・ライティングといったアウトプット場面で、文法が役立っていると実感できるようなタスクを設定してあげることが大切になるでしょう。たぶん、その中でも、そういうニュアンスを伝えるのに絶好の機会が「ライティング」だと思います。コンテクストのある英文を扱えるから、そういった「違い」を自然に指導できるし。

 「文法のための文法」だけじゃなく、「コミュニケーションのための文法」も指導し、評価する。ずっと言われ続けている「お題目」であはると思うけど、言われてるわりには具体的な話があまり進んでなくて、「お題目」のままな気がします。さらに言えば、授業中にタスクなど設定して場面の中で文法を使わせる(練習させる)工夫はしてきてるけど、評価に関しては旧態依然。ひどい場合にはすごくimplicitに文法を指導しておいて、テストではすごくexplicitに問うてたり。「練習したことが問われてない」という現状も見かけます。

 スピーキングテストやライティングテストでも「文法力」を評価項目に入れることはあるけど、そもそも意味伝達のほうが重視されていて、文法や語彙の正確性は軽く扱われている傾向があるように思います。たしかにfluencyも大切だけど、正直accuracyと半々くらいで評価してもいいんじゃないか、と感じています。

 別に中学校3年間で扱う文法項目についてすべてを運用レベルで問わなくてもいいと思います。基本的な語順であったり、疑問文の作り方・答え方だったり、簡単な時制だったり、最低限の意味伝達を支える基礎的な文法項目は、どの学年でもスパイラルに指導されていくべきだと思います。「中2の春の時は語順が不安定だったけど、中3になってから間違いが減ってる」みたいに、学習者が自分の成長を実感できるような指標が作れれば面白いと思います。

 コミュニケーションを成立させるために必要な最低限度の文法項目は何なのか。それを場面の中でどうやって測定するのか。そのへんを整理して、中学校英語教員同士でシェアしていければ、「文法指導」をあまり「悪者」にせずに済むし、生徒も安心して取り組めるようになるんじゃないかと思います。

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