首都圏公立高校入試のライティング問題比較

 さてさて、シンポジウムのご報告も兼ねて、今後いくつかシンポ関連の記事を書くと思います。それぞれなかなか深いテーマですので、ひとつひとつじっくりと。

 今回は高校入試問題について。

 当日は埼玉県の入試問題をご紹介しました。埼玉県は2003年から「5文以上」という条件英作文を出題していますので、少なくとも関東では「書かせているほう」だと思っていました。実際、県内の中学校の先生方の意識にも「身近なテーマで5文以上書けるようにする」のは中学卒業までの1つのゴールになっていて、それ以前に比べるとライティング指導が授業の中に取り入れられるようになってきていると思います。入試問題の波及効果は大きいですね。

 さて、そんな流れで迎えた埼玉県の今年の入試問題については、先日いろいろ書きましたので省略。で、ちょっと気になったので、例によって東京新聞のサイトを覗いてみて、関東(1都6県)の問題を比較してみることにしました。

>>東京新聞:2012年首都圏公立高校入試

 ざっとご紹介すると、千葉県は街で外国人に道を聞かれた際の答え方を20語程度で書かせています。典型的な「スピーキングの代理指標」としてのライティング問題ですね。その他、疑問文に1文で答える問題が2問出題されています。

 次に神奈川県ですが、実はライティング問題はゼロ。学校ごとの独自問題には多少存在しますが、共通試験には1問もありませんでした。来年度から入試も変わるようですので、新テスト問題に期待です。

 東京都は長文の内容に関して、単文で答える英問英答が2つだけでした。 (20120316加筆)すみません、コメント欄でご指摘いただいたように、東京都は英問英答の他に英文を読んで3文で答えるライティング問題が出題されてました。今年は「友人に伝えたい感動したできごと」でした。模範解答が(省略)となっていたので見落としていましたが、よく考えたらシンポジウムで工藤先生が例示されていた問題でしたね。大変失礼いたしました。

 こちらも神奈川県と同様に、一部の学校の独自問題では多少ライティングも出題されているようです。都立国際などの特色ある学校の解答用紙にはやたら広い解答欄が見られます。(←問題は非公開なので)

 茨城県はメールの文章を2ヶ所穴埋めする形式でした。1つは4語以内で、もう1つは25語以内で書かせていますので、量的には埼玉県と同じくらいですが、違う点が2つ。1つは埼玉県は文の数でカウントしますが、茨城県は総語数でカウントしてるので文の数は問わない点。もう1つは埼玉県は「以上」ですが、茨城県は「以内」という点。また解答欄が1語ずつ書きこむようになっていて、採点者が語数をいちいち数えなくていいデザインになってるのも特徴です。

 栃木県は紹介文や会話文の一部を埋める問題(1文×4箇所)と、「好きな季節とその理由」という埼玉県とまったく同じテーマでこちらは3文以上書かせる、という問題でした。だから文単位でカウントして理由を書かせたらBecause単独文が増えちゃうでしょうと何度言えば(以下略)

 うーむ、こうやって見てみると、なんだかんだいってまだ一応埼玉県が一番書かせてるのかもな、なんて思いながら最後の群馬県をクリックしてびっくり!

 まずリスニング問題でも筆記による回答があります。放送された質問に対して、英文を書いて答えるという問題が2問。(書き出しは指定) そして長文読解問題の中でも、和文英訳1問、並べ替え1問、英問英答2問と文レベルで書かせる問題が続きます。

 圧巻は最後のライティング問題。先生が示したトピック(2つ)を踏まえながら、学校を去るALTへ感謝の手紙を書くという問題なのですが、指定語数がなんと40語程度! しかも先生からのトピック提示は英語で書かれているので、読解の要素も含んだ限りなく統合的な問題です。

>>2012年群馬県公立高校入試:ライティング問題

 和文英訳から統合的な問題までバラエティ豊かに、そしてテスト問題のあちこちに書く問題を散りばめているという点で、なかなか面白いテスト問題だと思います。少なくとも量的には埼玉県を完全に抜いちゃいましたね。でも群馬県って前からこんなに書かせてたっけ、と思って昨年度の問題を見てみたら「20語程度」とあります。え、一気に倍増ですか。そりゃあ、ずいぶんがんばっちゃったな(笑) いずれにしても、これによって群馬県の中学校でのライティングの取り組みが大きく変わっていく可能性はありますね。

 今後、各県の教育委員会にお願いしたいのは、模範解答や採点の規準(基準)を明らかにして行って欲しい、ということです。シンポで松井先生がおっしゃったように、ライティング問題だけが受験生にも教師にも正答を示されないままテストが実施されているんです。多様な学校が存在しますので、採点作業の実際には様々あるのはわかります。でも、少なくとも県としてはどういう解答を期待しているのか、どういう英作文を「よい英作文」と考えているのかを、しっかりと発信していくことが大切だと思います。

 前にも書いたけど、埼玉県では試験日当日の夜にローカルテレビで入試問題を解説する番組がありますが、塾スポンサーで塾講師に問題解説させてないで、県教委が責任をもって「こういう力をつけて高校に行って(来て)欲しいんです!」と訴えて欲しいですね。(←10年くらい昔は県がやってましたけど、予算が取れなくなって手放したんでしょうね。でもそういうところにお金をかけることは大切だと思います)

 ということで、今年度の入試問題比較でした。個人的にはすごく関心のあるところなので、よかったらコメント欄やメールなどで関東以外の情報などもお寄せいただけると嬉しいです。