「思考・判断・表現」という観点が、授業にタスクを連れてくる

 大学での授業について少しお話します。

 私は主に大学2年生と3年生向けの教職課程科目として英語科指導法(本学ではEnglish Teachingという科目名)を担当しています。2年生で前後期合わせて30時間、3年生で30時間を学び、4年生で教育実習に旅立っていくのですが、限られた時間の中で何を教えるか、非常に悩みます。

 シラバスを作った時点では、学生の様子もわからない状態だったので、ある程度一般的な並びになってますが、学生の状態やニーズも把握し、90分でできることもある程度見えてきた今、改めて何をやるか(あるいは何をやらないか)を考えています。

 悩ましいのは、3年生は来年令和2年度に教育実習に行くので、実習で書く指導案は現行の学習指導要領に準拠した評価規準に従うのですが、実際に教壇に立つ事になる令和3年度からは新学習指導要領ですので、評価の観点が変わります。

 現行では、他教科などでベースとなっている4観点を組み直して、「思考・判断・表現」と「技能」を混ぜ合わせて、「外国語表現の能力」と「外国語理解の能力」という英語科独自の観点を編成しています。でもまぁ、この「能力」に関してはいわゆるCan-doとも連動できるし、比較的わかりやすかったのかな、と思います。


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 ところが、中教審の答申では「今回の改訂においては、全ての教科等において、教育目標や内容を、資質・能力の三つの柱に基づき再整理することとしている」と言ってますので、今度は3観点になるようです。ということは、現3年生は両方の評価基準で指導案を書く(というか授業をデザインする)練習をしておかなくてはならない、ということです。


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 そうなると、比較的わかりやすい「知識・技能」はいいとして、「思考力・判断力・表現力」の観点を英語科はどう扱うんだろう、という点が非常に大きな課題になっています。一応、現時点で示されてる一般的な観点のイメージはこんな感じ。


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 うーん、悩ましいのは、やっぱり「思考・判断・表現」ですね。

 まだ、参考になる情報は少なくて(どうもそろそろ文科省から何かしら出てくるらしいですけど)、とりあえず今出ている資料で一番具体的なのはこちら。(「各教科等・各学年等の評価の観点等及びその趣旨 」)


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 つまりまぁ、「『知識・技能』を使って、気持ちや情報や考えを伝えあってる」ってことなんでしょうね。聞いたり読んだりして終わりじゃなくて、その情報を理解した上で、何かしらの判断をして、リアクションすることを期待されています。なるほど、タスク的な活動を前提としているのかも知れません。

 というわけで、機械的な練習のみで「アクティビティ」終わり!という授業も多かったと思うので、なんらかの意味のやり取りをおこなう(であろう)タスク的な活動が授業に多く取り入れられていくのはいいな、と思います。

 とはいえ、いきなりTBLT的にタスク中心のシラバスになったりするわけじゃないだろうし、PPPの最後のProductionがタスク風になるくらいかもしれないけど、今後10年の流れとしては、それを後押しできそうなのでいいのかな、と思います。授業でもシンプルなPracticeだけでなく、タスクもデザインする練習に取り組んでいます。

 気になるのはやはり評価の扱いです。3観点になるとして、それぞれの観点は同等の重みを持つのでしょうか? 今まで「能力」が四分の二を占めていたことを考えると、今度は三分の一以下に薄まるわけで(知識・技能で三分の一)、思考・判断・表現という観点は果たして全体の英語力の三分の一を占めると言っていいのだろうか、という疑問も残ります。

 そして、思考・判断・表現にあたる活動が、知識・技能が身についたことを前提に、それらをどう活用するかを評価するのだとしたら、並列的に扱っていいものなのかも疑問です。この辺を文科省はどう説明するのでしょうか?ま、英語に限った話でもないから、色々考えてるんでしょうけど、辻褄を合わせたり他教科とのバランスを取ったりするためによくわからない観点になってしまわないことを祈るばかりです。