中学生にも「手帳術」を

 「生活記録ノート」ってありますよね。

 中学校では、翌日の授業の用意と日記が書き込めるようになっているノートを買わせたりすることが結構あります。年間で1冊になっているタイプと、学期や前後期で1冊ずつになっているものがあって、サイズ的にはたいていB5版です。

 こういうのを買わせたとすると、教師は生徒の書いてきた日記に目を通し、コメントを書き、帰りの会では翌日の予定や持ち物をしっかり記入させる、という指導が必要になるんですが、これがなかなか大変です。

 というのも、家で一日を振り返って日記を書いてくるというのが一応タテマエですので、朝ノートを回収します。(朝、あわてて書いている子も多いですけど) ところが予定や持ち物を書いたノートは生徒が自宅に持ち帰らないと意味がないですから、帰りの会までにチェックして返却しなければならなくなるので、教師はわずかな空き時間に40冊近いノートを見なければならなくなります。日常の業務を考えるとどうしても難しい日もあって、給食をダッシュで食べて、大急ぎでチェックなんて日もあります。

 また学年を追うごとに、もっと言えば月を追うごとに、ノートの提出率は下がっていくことがあります。もちろん教師はあの手この手で提出率を上げるように(維持するように)工夫をしていますが、中には「もう無くした」なんて子も出てくる。だから学期ごとにリセットできる学期1冊タイプも人気があるんでしょうね。(年間だと1度無くすとそこで終わりですから) で、毎年私もいろいろ工夫をして、それなりに提出率を維持しては来たけど、このノートについてはいろいろ思うところがあります。

 結論としては、あのノートの「手帳」機能と「日記」機能は分けて、別冊にするべきだ、と思います。具体的に言うと、「日記」は普通の横罫ノート、「手帳」はポケットサイズの手帳っぽいものにするといいと思います。

 それでは、「生活記録ノート」を別冊にすると、何が変わるのか?

 まず、時間的制約から解放されます。

 「日記」の方では、帰りの会で一斉に日記を書かせて回収→放課後+翌日の空き時間で教師がチェック&コメントという流れが可能になります。放課後が使えれば教師も落ち着いてコメントが書けるようになります。個人的には雑然としがちな帰りの会で、しーんとみんなが振り返りを書く時間が作れるのもいいなぁと思っています。何より、生徒がそのノートを持ち帰ることがありませんから、誰も無くさないし、全員が一緒に「書く」という作業に取り組めます。

 また、記入スペースにゆとりができることで使い勝手もよくなります。

 そもそも、日記スペースに教師のコメントを書く欄があまり無くて、すき間に無理矢理書いていました。とはいえ、「先生のコメントスペース」ってのがちゃんとあったらあったで、全部埋めるのも大変。日によって書きたいことの量も違うだろうし、なんだかんだいってハンコだけの日もある。だから、普通のノートを使った方が、お互いに気楽に続けていくことができると思います。

 手帳機能もこれまで無理矢理1冊になっていたために、書き込むスペースが十分ではなかったように思います。スペースが増えれば持ち物だけじゃなく宿題などもしっかりメモれるようになるでしょうし、カレンダーやタスク一覧なども盛り込めば、塾や部活の予定なども勘案しながら課題をいつやるかという見積もりをさせることができるようになります。ずいぶん前にテスト勉強の計画の立て方について書きましたけど(そして途中で滞ってますけど)、中学生にもそういう時間とタスクの処理方法を学ばせる必要があると感じています。

 いつも持ち歩くようになれば、メモする習慣をつけていくことができます。

 そのためにも、「手帳」はポケットに入るサイズで、ただのメモ欄が充実してるといいと思います。中学生って、結構メモした方がいいことってあるんです。「委員会での話し合い内容」「学級会での決まり事」「学年集会での先生の話で印象に残った言葉」など、気になったことがあっても、意外と何にメモしていいかわからないんです。女の子たちは、それこそ無駄にメモ帳を持ってますけど、たいてい(イラストがスペースの半分くらいのかわいいやつで)切り取りできるタイプで蓄積ができない。「お手紙」用紙としてはそれでいいでしょうけど、私はより「手帳」としてのライフログ機能を体感させたい。そして、さっとポケットから取り出して、メモする中学生を育てたいんです。

 「日記」について普通のノートを使う実践をされている先生は、これまでにも私の周りに何人かいらっしゃいました。ただ、その場合も学年で統一していわゆる「生活記録ノート」も買わせてたりしましたから、ちょっと無駄もあるかなぁとは思います。でも「日記」機能を取り外した中学生向けの手帳なんて作ってる出版社がないから、仕方ないことは仕方ないんですけど。そういう意味では、生徒手帳がもう少しグレードアップして使い勝手がよくなれば、いいかもしれませんね。身分証明書機能はそれこそカードかなんかにしちゃえばいいし。

 ということで、少し前に某出版社の人に「副教材等」について意見を求められたときに「生活記録のノート」についてそんなことを提案したりしたんだけど、さすがに商品化はされないですねぇ。こういうのって教師のニーズがないと動かないよね。だから、なんとなく惰性で「手帳」&「日記」タイプの「生活記録ノート」を選んだけど使わせ方に苦労しているというぼくみたいな先生方がいたら、出版社に投げかけてみませんか? 

 ビジネス誌ではしょっちゅう「手帳術」が特集されるくらい人気ですが、こういうのを教わらないまま社会人になっちゃったからこその需要なのでしょう。教えるチャンスはこれまでも学校に転がってたのに。学校ではどちらかというと、「ノート出せ」という精神論しか教えてこなかった気がします。

 別に学習指導要領に載ってる指導項目ではないんですけど、こういうライフハックス的なことって、まさに「生きる力」というか、生徒たちの潜在的な能力を引き出すきっかけになると思うんです。こういうのを覚えることで、無駄に怒られずに済むようになる子だっていると思います。

 持ち物を忘れたり、宿題が終わらなくて親や先生にいっつも怒られてばかりいた昔の中学生の一人としては、なおさらそう思ってしまうのです。