「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」の前半を読んだけど、結局3つの観点の違いがまだよくわからない

 昨年からずっと出る出ると言われ続けてきて結局年度末、小学校において新学習指導要領が施行される5日前になって、小中学校向けの新学習指導要領に基づく評価のための参考資料が国立教育政策研究所より公開されました。

 

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www.nier.go.jp

 

 当たり前ですが、英語に限らず、全部の教科で公開されています。

 

 全教科共通で、新しい評価観点のポイントについて書かれた「第1編 総説」、英語科に絞って評価基準の設定の仕方を説明する「第2編 作成の手順」、そして具体的な指導と評価の事例を提示する「第3編 事例」とありますが、全部読むとかなり長いので、とりあえず第1編、第2編を読んだ感想をメモしておきます。(読みながら書いたTweetの羅列、とも言う)

 

 結論を先に書いておくと、長い間この資料を待ってはいたものの、この資料を見ても、これまでブログで提示してきた新学習指導要領に基づく評価基準の設定にともなう問題点・疑問点はほとんど解決しませんでした

 

anfieldroad.hatenablog.com

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 ブログでも掲げていた問題点は、3つの観点が似ているということ。文言の細かいところに差があるだけなので、それぞれが何を測っているのか区別がしづらいと感じていました。

 

 一番基礎的な部分を測っていると思える「知識・技能」についても、

 

各教科等における学習の過程を通した知識及び技能の習得状況について評価を行う

 

    +

 

それらを既有の知識及び技能と関連付けたり活用したりする中で,他の学習や生活の場面でも活用できる程度に概念等を理解したり,技能を習得したりしているかについても評価する

 

などと言うものだから、「意識高すぎ」です。上の1つだけなら普通だったんだけど、「生活の場面でも活用」というのが肝ですね。

 

 ちなみに、もともと意識高い系と思われる「思考・判断・表現」が、

 

各教科等の知識及び技能を活用して課題を解決する等のために必要な思考力,判断力,表現力等を身に付けているかを評価する

 

という書き方。「生活の場面で活用」と「課題を解決する」の違いってなんだろうと考えてしまいます。「技能」のところでは、

 

使用する言語材料の提示がない状況においても,それらを用いて事実や自分の考えなどを話したり書いたりすることができる技能を身に付けているか否かについてを評価する。

 

と書いているのでコンテクストの中で使わせることを「生活の場面で活用」と呼んでいるのでしょう。示されている評価場面を見ると、「知識・技能」は例えばペーパーテストでもいいけど、その英語が使われるコンテキストを示した上で文法力を測れよ、みたいな感じ。「思考・判断・表現」は、ディスカッションやプレゼンとかさせろよ、みたいな感じ、かなぁ。わからなくはないけど、「測り方」ありきになっていませんかね?

 

 ちなみに「主体的に学習に取り組む態度」は

 

知識及び技能を習得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付けたりするために,自らの学習状況を把握し,学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら,学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価する

 

とあるので、これもなんかも「ポートフォリオ」とか「自己評価表」みたいな測り方・記録の仕方を想定している書き方ですよね。

 

 一方で、

 

単に継続的な行動や積極的な発言を行うなど,性格や行動面の傾向を評価するということではなく

 

と明記したことは評価できるかも知れません。「授業中たくさん手を挙げた人えらい」、「期限までにワーク提出した人えらい」みたいのはこの際駆逐したいとも思います。(いや、それらは「人としてはえらい」けど、英語の力なのかと言えば疑問でしょう)

 

 

 さて、似ている3つの観点を、評価基準の例で比較してみます。

 

【話すこと・書くこと】

 

「知識・技能」=「話したり書いたりして表現したり伝え合ったりする技能を身に付けている状況

「思考・判断・表現」=「話したり書いたりして表現したり伝え合ったりしている状況

「主体的に学習に取り組む態度」=「話したり書いたりして表現したり伝え合ったりしようとしている状況

 

【読むこと・聞くこと】

「知識・技能」=「その内容を捉える技能を身に付けている状況

「思考・判断・表現」=「コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,必要な情報や概要,要点などを捉えている状況

「主体的に学習に取り組む態度」=「必要な情報や概要,要点を捉えようとしている状況

 

 つまり、「しようとして」いれば主体性が◯で、「する技能を身に付けて」いれば知識・技能が◯で、実際に「していれ」ば思考・判断・表現が◯になるということですかね。そうなるとやっぱりこの3つの観点には階層性があるというか、1つの内容のまとまりについてだけ書くと、3つの観点の間に上下があるように見えてしまいます。

 

 例えば今日の授業では「聞くこと」は「思考・判断・表現」レベルまで求めるけど、「書くこと」は「知識・技能」レベルで十分とする、みたいに異なる領域(内容のまとまり)について別々の目標を立てるというやり方は現実的には存在するので、第3編の事例でそういう例が示されていることを祈ります。

 

 ということで、こりゃあ、指導案書くの大変になりそうだなぁ、役立ちそうな資料ないのかな、と思っていたら、参考になりそうな表が載ってました。これだよ、これ。こういうのを待っていたんですよ。でもその表が2ページに分かれて見づらかったので、1つの結合してみました。

 

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 なんか正直この表だけでも十分じゃないですか。これだけでいいから、もったいぶらないでもっと早く公表してくれてればよかったのに、と思います。県レベルの指導主事には昨年のの12月にほぼこの内容が降りていたようで、県から地区や市町村に「伝達」していくことをイメージしているんでしょうね。

 

 でも、そうやって情報を小出しにして、下々に対して優位な立場に立とうとする教育観こそ、文科省が「古い教育観」とか言って否定しそうなのになぁ。まぁ、「アクティブ・ラーニング」みたいな本来ボトムアップな形で作り上げていく教育手法も、トップダウンで指導を促していくのだから、ある意味平常運転ではあるのだけど。

 

 そしてこの時間差は結局、先に渡された県の指導主事がさらに詳細な評価資料作るために必要なタイムラグだったりもするのでしょう。でも分厚い評価資料もいいのだけど、それよりは、

 

【 X 目的等 】に応じて,【 Y 事柄・話題 】について,簡単な語句や文を用いて,【 Z 内容 】を即興で伝え合っている。

 

のX, Y, Zの項目選べば評価基準の文言が自動生成されるExcelファイルでも配れば、先生方が指導案作るのには助かるのでは、とも思います。

 

 ふう、具体例までたどり着くまでにすっかり疲れてしまったので今日はこのくらいで。

 

 最後に、今回の資料のあちこちにある、

 

このような考え方は,従前の「思考・判断・表現」の観点においても重視してきたものである

 

とか

従前の「関心・意欲・態度」の観点も,各教科等の学習内容に関心をもつことのみならず,よりよく学ぼうとする意欲をもって学習に取り組む態度を評価するという考え 方に基づいたものであり,この点を「主体的に学習に取り組む態度」として改めて強調するものである。

 

みたいな書き方はお役所的で気になります。「抜本的に改革してるぜ!」と「あ、でもこれまでも別に間違ってませんでしたから」を両立しなくてはならない官僚魂(というかひたすらに無駄な苦労)を感じて無駄に頭が下がります。

 

 でも本当はそんな内向きの気遣いより、学習指導要領を大きく変えたんだから、過去の政策に何かしら問題があったということで、むしろその問題をしっかり精査・周知して、その策定プロセスを見直すような努力こそ、必要じゃないですかね。PDCAとかお好きなんだから、文科省様。